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第六話「Maximum」

 翌日、北海道大学のキャンパス――。大和は、同じ講義を受ける予定の男友達と肩を並べて歩いていた。

(早く小岸に会いたい。早く会って、事の真偽を本人から確認したい。顔が見たい)

 栗藤つむぎに肩を並べる美貌、アイドルという肩書き。小岸マキシは大和の心を掴んで離さなかった。

 大和は、基本的に女と肩を並べたい。だから今の状況は別に望んでのものでは無かったし、もっと言えば美人をたくさん見かけたい。キャンパスの中を歩いている時や街に繰り出した時、すれ違う人間は女性ばかりだととても嬉しい。

 大和はそれら女性の容姿を欠かさずチェックし、もしとても魅力的であれば声も掛ける。それは神経質すぎる程であるが、それ故にすれ違う同性には微塵も興味を示さない。ほとんどの場合。

「うっわ、今の人めっちゃ綺麗だったなー」

 大和の前方から歩いてきた男が、後ろを振り返って言った。もう一人の男も興奮気味に意見を肯定する。

 不思議と、大和は確信していた。目を細め、視力を凝らす。

 視線の先には女性が一人。栗毛は今日も透き通っていて、春の日差しに非常に映える。

「――小岸さん」

 大和は、小さく微笑んで彼女の名を呼んだ。



 第六話「Maximum」



「あ、森川くん。こんにちは」

 マキシは会釈した。

「どうも。これから講義?」

 そう言うと、マキシの返答を聞きながら大和は「悪い、先行ってて」と隣の友人に囁いた。

「俺もこれからなんだ。まだ大学の講義にはあまり慣れなくて、毎日大変だよ」

 大和はそう言うと笑顔を作った。

「私もです。高校とは全然違いますね、やっぱり。無理してこんな難しい大学入らなきゃ良かったかなー、なんて」

 マキシは冗談半分といった顔でそう返した。

「はは、俺も。ギリギリで滑り込んだようなもんだから」

 言い切って大和は、「しまった。ここで『やっぱり忙しいよね。聞いたよ? アイドルやってるとかって』と言えば良かった」と思った。

(自分の事なんか話してる場合じゃない。早くしないと講義の時間になってしまう)

 マキシの言葉を待たずに、大和はそのまま続けた。

「でも多分、小岸さんは俺の何百倍も忙しいんだろうな。えっと、聞いた話じゃアイドルやってるとかって……」

 それにしても、見れば見る程にマキシは美しかった。大和は一秒を重ねる度にマキシに惹かれていき、遠慮する事もなくマキシの目を正面から見つめてしまっていた。

「うーん、いや、アイドルっていうか雑誌モデルですけどね。デビューしたばかりですし、たまーに雑誌に出るくらいで忙しいとかは全然無いですよ」

 ――YESともNOともとれない答えに、大和は一瞬対応の仕方を見失った。

 いや、頭の中では「小岸マキシ=アイドル」の図式が完全に出来上がってしまっていただけに、その衝撃は想定外に大きなものだった。

(小岸マキシはアイドルじゃない……?)

 北海道大学に通う、少なくとも既にある程度の人気を誇っている筈のアイドル。

(雑誌モデルという肩書きがどこかでアイドルという表現に捻じ曲がってしまっていたのだとしても、マキシはまだデビューしたばかりだと言う。少なくとも、この噂はマキシの事では無い)

 心の奥底から、言い様の無いざわめきが突き上がってくる。

(この学校にはもう一人、とんでもない奴がいる――)



 ――鳴り響く機械音。

 アラームを止めてからカップラーメンの蓋を剥がす。液体スープ、粉末スープを入れ、箸でかき混ぜる。

 すると次にやかんのお湯を粉末スープの袋へと注ぎ、軽く揺らしてから今度はカップラーメンの容器へと移した。それと同じ事を液体スープの袋でも行う。お湯の量は、これで丁度良くなるように初めから計算されている。

 こうする事で粉末、液体スープ共に0.1%の成分も残さず容器へと移そうと言っている。

「〜♪」

 これをしないと気が済まない。ここまでしないとキレて容器ごと排水溝へとぶちまける。

 ――白く、形の整った綺麗な脚。肩ほどまで伸びる澄んだ茶髪。手の込んだ眉、透き通った肌、細い手首、華奢な首、etc、etc……。

 それはまるで、女性のよう。


 姫島 彩乃18歳。

 所属:ジャニーズ事務所。

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