第五話「両手に華を抱えたい」
高嶺美華から森川大和へ。電子の世界を飛びメールが届く。
『北大にアイドルが通ってるって聞いたんだけど、大和くん知ってる??』
大和はそのメールを見て、即座に一人の人物を思い浮かべた。
(小岸マキシ……。道理で……)
当然、北大に通う美女という点では栗藤つむぎもその対象であったが、つむぎがアイドルなどやるような人間でない事を大和は知っている。そもそも、つむぎの事なのだったら美華の耳にも詳細が入るだろう。大和はそう考えた。
『マジ!? 学部とか特徴とか、何か分かる?』
大和のメールに対して、返事はすぐに返って来た。
『ごめん、何も分かんないんだよね(涙を流す絵文字)。でも、かなり人気のあるアイドルらしいんだけど……』
(…………?)
大和は不思議に思った。これまで小岸マキシをテレビで見た事は無い。言う程に人気があるなら、一度くらい見た事があっても良さそうだが……。だが、そもそも最近は新生活の準備、その前は受験勉強一色と、よくよく考えればゆっくりテレビを見た記憶などあまり残っていない。ならば、小岸マキシをテレビで見た記憶が無くても、まあそれはそういうものなのだろうかとも大和は思った。何より、マキシの圧倒的な魅力こそがこの推測の最大の根拠でもある。
『そっか。じゃあ友達とかに聞いてみる。何か分かったらまた教えて(手を振る絵文字)』
これくらい調べてからメールしてこいよと大和は思ったが、まあそれは良い。詳細をマキシに聞いてみる際、会話が弾むかもしれない。
(小岸マキシ……アイドルか。これはつむぎにも無い付加価値だ……)
アイドルの彼氏というのは、一体どれほどの優越感を得られるのだろう。それを考えるだけで心が弾む。
(くそ、メールアドレスくらい聞いておくべきだったか……)
少しでも早く、マキシと言葉を交わしたい。マキシと関わりたい。大和の欲求はとても素直だ。
――栗藤つむぎに小岸マキシ。一生の内に一度出逢えるか出逢えないかという美女が、この大学には二人もいる。
(特に、槙原太陽はこの大学じゃないというのが素晴らしい。それが何よりも心地良い)
大学生活はとても楽しいものになりそうだと、大和は輝ける未来に思いを馳せた。