第四話「邂逅へのカウントダウン」
『退屈』とは、誰にでも起こりうる日常的な病である。ただただ無為に流れ行く、怠惰な時間。人々はそれを埋める為にこそ、こうして様々な娯楽を求めている。
高嶺美華は、『退屈』を何よりも忌み嫌う。
阿呆の様に過ぎてゆく、無意味な時間が憎らしい。常に刺激が欲しい。面白くなければ目覚めている意味が無い。
――美華は、時々『もし自分が美人じゃなかったら』と思う事がある。そして、その度に背筋の凍る思いをするのである。異性から相手にされず、愛されず、羨望の目になど縁が無い。そんな日々を思い描くだけで、美しく生まれてきて本当に良かったと美華は胸を撫で下ろすのだった。
その美しさゆえ、幸いにも美華は幼い頃から刺激には事欠かなかった。異性からの告白は何度味わっても気分が良く、その度に美華の心は弾む。高校二年の時麻柄杏輔に振られるまで、一瞬たりとも彼氏のいない時期というものは無かったし、無論今もその例には漏れない。
結局のところ、彼女にとって恋愛とはただの手段でしかないのだ。暇を潰し、楽しさを得る為の娯楽。人が、より良い車、より質の高い映画を求める様に、相手の男性の容姿はより良い程に良いに決まっている。
だから、美華は交際相手に対して欠片程の思い入れも無い。より良い男が見つかればほんの少しの躊躇も無く鞍替えするし、彼氏がいたって他の男とも遊ぶ。だが、美華はそれらを『悪い事』だとは捉えていない。本当にそれが嫌なら、誰も自分と付き合わなければ良い。高嶺美華は最悪の女だと、誰も見向きもしなければ良い。
結局、周囲の異性にそれは出来ないのだと美華は理解している。いくら強がりを言おうと、美華が少し声を掛けるだけであっという間に態度を変える。ならば、美華がしている事は『悪い事』では無い。それを上回る容姿を持った自分の、当然の権利なのである。美華はそれを理解していた。
「ねえねえ。知ってる?」
友人、木元真子は美華の肩を叩いた。先の話を述べた直後だと、まともな友人がいる事自体違和感を感じてしまいそうだが、美華はあくまで外面は良いので、友人は普通にいる。もっとも、逆に友人と言っても上っ面の付き合いが多く、本当に美華を友人だと思っているのは真子をそれとしても決して多くは無かったが。
「何が?」
興味は薄かったが、一応社交辞令として聞き返した。
「北大に私達と同じ代のアイドルが通ってるらしいよ」
「アイドル?」
気だるそうだった美華の顔が、僅かに冴える。
「うん。私も又聞きの又聞きで、全然詳しくは無いんだけど。もうかなり人気ある人らしいよ」
「何て人?」
「いや、それが名前すら……」
真子は残念そうに首を振った。美華はそれくらいさっさと調べておけよと思ったが、まあそれは良い。
(……北大か。確か大和が……)
事の詳細を聞くついでに、大和と話が弾むかもしれない。
「分かった。じゃあちょっと北大に通ってる人に聞いてみる」
そう言って、美華はポケットから携帯を取り出した。
ここのところアクセス解析が変になってしまったみたいで、7月1日以降更新されていない。
平然と感想をもらえるような格の高い作家さんと違って、アクセス数が唯一の指標&モチベーション維持だった私にとってはかなりのショッキングな出来事。
一日も早い復興を願います。管理者さん、大変でしょうけど頑張って下さい。