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第三話「芸術品」

 大和は、自分の衝動的な行動と現状を把握し、以降の応対を瞬間的に組み立てた。

「な、なんですか!?」

 いきなり肩を掴まれたその女は、当然驚いた様に振り返る。その表情には怯えと戸惑いとが含まれ、強張る両目はしっかりと大和を捉えている。

「あっ、ああ……ごめん、いきなり」

 大和は我に返ったような素振りで右手を女の肩から離した。

「いや、覚えてない? 森川」

 そう言って、大和は自分の顔を指差した。その表情は優しく、語りかけるかのように微笑んでいる。

「森川……?」

 当然、それ程の美人ならば大和の記憶に残っていない筈が無い。これは大和の常套句。

「んー、忘れちゃった? 小学校の時同じクラスだったじゃん。森川大和」

 忘れられてしまって少し気恥ずかしいような、そんな柔らかい笑みを浮かべる。

 そんな大和の受け答えで緊張が和らいだように、女も強張った頬を緩ませた。

「え……ご、ごめん。ちょっとド忘れしちゃったかも……。やばい、ほんとごめん」

 女は申し訳無さそうに顔を俯かせる。見上げる様に大和を見るその目は、丸々として愛らしい。

(……思い切り外人って顔じゃないが、純日本人でも無いな……。日本とアメリカあたりとのハーフか)

 大和は品を定めるように女の顔を観察する。

 白く透き通った肌。異様な存在感を持つ瞳。これでもかと言わんばかりに整った顔立ち。

(…………)

「うー、忘れられちゃってたかあ」

 オーマイガッド。そんなセリフでも出てきそうな陽気なリアクションで、大和は右手で顔を覆った。

「まあ、会うのは小学生の時以来だもんなあ。えっと、下の名前は里香で合ってるよね?」

 それは、大和が即興で考えた架空の人物。その言葉で、女は意外そうに顔を上げた。

「ち、違います……けど……」

「えっ、里香じゃないの!?」

 大和は驚いたように声を張り上げた。

「マジ? じゃ、じゃあ人違い……なのかな?」

 やってしまったという表情で、大和は後ずさりした。女も少し苦笑している。

「……た、多分」

 一拍置いて、二人は笑い合った。

「私、その里香って人とそんなに似てるんですか?」

 とても明るい表情で女は笑う。先程の緊張した表情と比べ、女は一層可愛くなった。

「うん! もう、赤の他人なんだったらほんとあり得ないぐらいのそっくりさんだよ。……あ、もしかして里香のお姉さんだとか……ひょっとして川内って名字?」

「違いますよ」女は楽しそうに笑う。「私、小岸マキシって言います。カナダと日本のハーフで、こんな変わった名前ですけど」

(カナダか……。……それにしても、つむぎ以外にこんな奴が……)

「なんだ、全然違った」

 大和も柔らかい笑顔を作った。

「えっと……小岸さんはここの学生?」

 マキシで良いですよ。そう言おうとしたが、初対面の異性相手にそんな事を言うのも気恥ずかしいのでマキシはやめた。

「はい」

 マキシはこくりと頷いた。

「じゃあ、これからまた何かの縁で会う事もあるかもしれないね。俺は経済学部だから、何かあればよろしく」

 そうして大和は手を振って、次の講義へと向かっていった。

「こちらこそよろしくお願いします」

 マキシは、その背中に向かって手を振り返した。

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