第一話「大和は美人と寄り添いたい」
とても不遜な言い回しをすると、森川大和は、自分以上に顔の良い同性と出会った事が無い。それを誰かに話す訳でも無いのだから、きっとそれは真実だ。
――森川大和は比較する。
大和は、同性を見かけると必ず自分の顔と比較する。それは、生まれつき顔の整っていた彼の習慣のようなものであり、十歳の頃にその癖が出始めて以来、ほぼ欠かした事は無い。とは言え、比べるとは言っても上記の有様なので、「どちらが格好良いか」では無く「自分が相手よりどれぐらい格好良いか」を量るだけとなっている。
ちなみに、麻柄杏輔がマイナス2、土愛直哉がマイナス5、槙原太陽でマイナス4である。特に数値に意味は無いが、より分かりやすく比較する為のもので、マイナス側であるという事はそれだけ大和より顔が良くないという事である。下限はマイナス10であり、当然、プラス側に出会った事は未だ無い。
――森川大和は好きなものしか受け入れない。
大和は、その時彼女がいないからといって麻柄のように誰とでも付き合ったりはしない。いや、この言い方には語弊があり、どちらかと言えば麻柄の考え方が人とズレすぎている訳なのだが、それにしても大和も女性に対してこだわりすぎる。事実、これだけの容姿をして高校三年間で彼女ができたのは一度だけであり、彼女がいない時期に受けた告白は全て断った。その中には北本由美や三好美保といった一般に可愛いとされてきた女性も含まれていたが、彼女達では大和の好意を寄せさせる事は出来ず、呆気なく振られてしまった。
大和が付き合っても良い最低線となるとそれは高嶺美華や黒木栞であり、最低線でない女性とは栗藤つむぎただ一人である。
――森川大和は遠慮をしない。
大和は、自分は異性から愛される容姿をしていると客観的に理解している。だからこそ女性に対しての遠慮を知らないし、何よりも優先されるのは大和自身の意思である。
付き合っている彼女が不細工になれば躊躇う事なく振ってしまえるし、それがまた元に戻れば、何も無かったかのように、再び付き合う事を望むだろう。
――大和は、何があっても栗藤つむぎを諦めない。
何があろうと、どんな邪魔者が現れようと。栗藤つむぎが美しくあり続ける限り、大和は死ぬまで追求するだろう。