第15話「蓼食う虫も好き好き」
(麻柄が、栗藤さんの事を…………)
――葉山は、この事を槙原に言うべきか考えていた。
(槙原……)
槙原が、栗藤さんが好きだとはっきり認めないのは相変わらずだったが、恐らくは、好きで好きで堪らないのだろうと葉山は考えている。単純に、恥ずかしがっているのだ。
(――なら、片方にだけこの状況を話すのは反則? それならお互い知らないまま……いや、でも――)
自分の事では無いにも関わらず、葉山は真剣に悩んでいた。二人共葉山にとって親友とまで呼べる人間であり、そこに優劣など無い。
葉山は天井を仰ぎ、ひとつ溜息をついた。
(……とりあえず、様子見だな)
第15話「蓼食う虫も好き好き」
「………………」
隼平は、葉山のそれよりも深く、長く、大きな溜息をついた。
「何? どうしたの?」
隼平のクラスメイトである淳が声を掛ける。
「…………」
隼平は少し間を置いてから、口を開いた。
「お前、栗藤って二年生知ってる?」
「ああ! アレだろ。二年生にもの凄い美人がいるっていう。顔は知らんけど」
「そう、その栗藤」
「その栗藤さんがどうかしたの?」
隼平はもう一度、溜息をついた。
「完熟って感じ」
「何それ」
淳は、怪訝そうな顔をした。
――栗藤つむぎの変貌は、一学年の生徒の間にまで広まっている。元々、学校中の注目を浴びる美人であった彼女の変貌は、瞬く間にニュースになっていた。
隼平はその事を淳に話し、愚痴にも似た思いの丈を吐き出した。
「ふーん…………。まあ、どっち道俺は栗藤さんの顔知らなかったからなあ。いまいちピンと来ないけど、それ程嘆く様な事なら相当ショックだったんだろうな」
「当然だっつーの!! くそ〜……。さり気に俺、栗藤さんの事本格的に狙ってたのによ!!」
「それ、無理ありすぎるだろ……。相手は学年一の美人だったんだろ? ライバル多すぎで、お前の入る余地なんかねーって」
「やかましい!」
隼平はボディーブローを決めた。淳は腹をおさえ、その場に蹲る。
「お、お前……バカ野郎」
「天誅なり」
隼平は悪びれる事無く、むしろ踏ん反り返って腕を組んだ。
「あ! でもそれなら逆に、今競争率低いんじゃない? 今なら、お前でもチャンスあるかもよ」
「バーカ。今だったら向こうから頼まれたって断ってやる。つーか、今なら競争率低いどころかライバル0だろ。マジで不細工になっちまってんだからな」
「そんなもんか〜? 性格で選んでる奴とか、いくらなんでも一人もいないって事は無いだろ」
「いないね。そんな奴がもし存在したら、俺が出向いてって前歯折ってやる」
「何でだよ」
淳は呆れ顔でツッコミを入れ、その時丁度昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「ヤバ、次って集会だよね。体育館?」
隼平は周囲を見回す。
「多分。行くか」
隼平と淳は自分の席へと戻り、椅子を持ち上げた。
しかし急いで教室を出ようとした時、教室の隅の席で机に突っ伏して寝ている男がいる事に気がついた。
「おい直哉! 早く行くぞ!」
すると隅の男は眠そうに頭を上げ、口を開く。
「…………今日の集会って、二年生も一緒?」
「いや、今日は学年集会だろ? 一年生だけじゃねーの。とにかく早く行くぞ」
そう言って、隼平と淳は教室を出て行った。
「………………」
ちぇ。
誰もいない教室の隅の席で、直哉は小さく呟いた。
基本的に。
私は小説の執筆は全てパソコンのメモ帳を使用しているんですけど、私の中では『一話一話、スクロールが出るまで書く』というのが基本的なノルマです。
つまり、どんどんどんどんと書いてってスクロールが出来る様になるまでは書こう、という感じです。
とは言え、今まで何度も何度も何度も何度も、そのノルマぶち破ってきてるんですけど。
とりあえず、今回はギリでした(規定ノルマ+一行)。