第11話「宿敵」
十一月四日。この日、北海道の大地に初雪が降った。
バスの中は人で溢れ返り、槇原太陽と栗藤つむぎは少し、会話する機会が減っていた。
そんな、人と人とが所狭しと同居する車内。そこに、その男はいた。
第11話「宿敵」
『カニ、た〜べ行こう〜♪ はにかんでいこう〜♪』
――その男はどうやら、本気で人を好きになるという事が無いらしい。
学年一の美女と言われていた栗藤つむぎを見た時も、高嶺美華と付き合ってみた時も、心の底から突き上げる様な情熱に駆られた事が無い。
バスの一番後ろ、窓際の席で、その男は目を瞑っていた。
腕を組み、足を組み、その両耳のイヤホンからは軽快な音楽が漏れ出している。
槇原のそれとは違い、その男が耳にイヤホンをつけている時は、必ず大音量で音楽が流れている。
(…………)
――男は、日常に退屈していた。綺麗な顔立ちをしている彼の元には日々異性が集まるが、彼はそれらに興味を抱く事が出来なかった。
それでも男は試験的に、マウスで動物実験を繰り返す様に、女生徒からの交際の申し込みを断った事は無い。
『付き合ってみれば、好きになるかもしれない』
その考えに至り、女生徒から申し込みがあればとりあえず付き合ってみる様になったのは、中学三年の冬。
付き合ってくれと言われれば承諾し、しばらく付き合ってみてそれでも興味を持てなければ、別れる。彼はそんな事をどれだけ繰り返したのだろう。
高校に入学して一年半。そろそろ彼は、高校時代にも青春を見出す事を諦めていた。
道路にできた突起部を車輪が捉え、ガタンと揺れる。
吊革を掴んでいない生徒達はバランスを崩し、慌てて傍の鉄棒を掴む。
最後列の彼は目を覚まし、ゆっくりと目を開く。
ぼやけた視界を晴らす様に男は首を左右に振り、両耳のイヤホンを外した。
――スカートの裾から見える、肉付きの良い脚。背負った鞄が食い込む肩。そして一般水準の女生徒と比べ、確実に一回りも大きい白い顔。
――男の心の底から、情熱が突き上げた。