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第10話「絶対不変のダイヤ」

 体育祭から一週間。冷えた風が頬を叩き、太陽が落ちるのは日に日に早くなっていた。

 俺は今も尚、懲りずにバスで通い続けているのだが――……。この日、俺の後ろには栗藤さんがいた。

「槇原くん! こっち向いてよー」

「あっ、ああ……」

 俺の肩を掴み、彼女は顔を寄せる。二人の顔が近づくのが照れ臭くて、俺はそっぽを向いた。

「…………」

 俺が、彼女と会話する事を嫌がっている様に思えたのだろうか。栗藤さんは肩の手を離し、俺から顔を離していった。

「ちっ、ちが――」

 俺が慌てて振り返ると、目が合った。お互い何も言わずに、短い時間が流れる。

 彼女は満面の笑みを浮かべ、俺もそれにつられて笑った。



 第10話「絶対不変のダイヤ」



「でも、槇原くんがいて良かったな!」

「えっ?」

 俺は頬を赤らめた。

「ほら、バスって夏とかはほとんど人いないでしょ? 千尋は時々しかバス使わないし、槇原くんいないと私、話し相手いないもん」

(……そういう意味か……)

 でも、それでも俺は少し嬉しかった。この一本のバスが俺と栗藤さんを繋いでいるみたいで。

 もっとも、栗藤さんが可愛いままだったら更に嬉しかったのだろうが……。

「……だね」

 俺がそう言うと、彼女はまた優しく微笑んだ。



 ***



「いよーっ槇原くん!! 今日も朝から彼女と登校とは見せ付けてくれるじゃないの!」

「彼女じゃねーっ!!!」

 俺は反射的に、葉山に向かって大声を張り上げた。

「そこまで必死になって否定しなくて良いっつの」

 葉山はニヤケ笑いを浮かべながら俺の前の机に座る。

「良い雰囲気だったらしーじゃん」

「別に……何でもねーよ。つーか、なんでお前それ知ってんの?」

「いや、お前らと同じバスに乗ってた奴から聞いただけだけどさ。もう最近は結構寒くなってきたし、バス通学する奴増えてきただろ」

「聞くなよ」

「隠す事ねーじゃねーかよ〜! なあなあ、お前らどこまで進んでんの!?」

「ふざけんな!!!」

 俺は机の下から、葉山の右足を蹴っ飛ばした。

「キス」

 葉山は両手で奇妙なポーズをとる。

「馬鹿やろう」

「抱擁」

「しねーって」

「デート」

「だから、そんな関係じゃねーっつの」

「電話番号」

「……知らん」

「メアド」

「…………知らない……」

 その語尾は、自然と声が小さくなっていた。

「はあーっ!? お前メアドも知らねーの!?」

「うるせーな。別に要らねーよ」

「照れんなって。俺、今度誰かから聞いといてやろうか?」

 葉山は純粋に、好意からそう言ってくれているのだろう。

「いや……でも本当に良いんだ」

「?」

 


 ***



 放課後。俺はいつもの様にバス停に並んでいる。その両耳にはイヤホンが付いているが、今は例によって音楽は流れていない。

 バス停には高校の生徒が五人程並んでいて、まだ栗藤さんはこちらに気が付いていない様だった。

 ワイシャツのボタンを外したりしながらバスが来るのを待っていると、遠くの方から女生徒の罵声が聞こえる。その声は少し高嶺さんに似ている様な気がしたが、それは流石に気のせいだろう。

 ――そう言えば、高嶺さんには彼氏がいるらしい。そりゃあ、あれだけ美人なら彼氏の一人や二人いて当然だろうが……。

(まったく、羨ましい話だ。あーあ、俺には縁の無い話だろうなあ)

 でも、そう思っているのは実は俺だけかもしれなくて、人生はいつ何が起こるか分かったものじゃない。

 ――誰かに右肩を掴まれて後ろを振り返ると、そこには高嶺さんが立っていた。

(!! 高嶺さん! 本物!!?)

「ちょっと……この後少し時間無い? 話があるんだけど……」

 惹き込まれそうな長いまつ毛、潤った唇。大きな黒目は真っ直ぐ俺の目を見つめていて、俺は一瞬で、それらに見入ってしまっていた。

「え……話って、何……」

 その時、いつもの停車位置にバスが止まる。音を上げ、その扉が開いた。

 並んでいた生徒達は一人ずつ乗り込んでいく。その中には、栗藤さんの背中もあった。

(…………)

「ちょっと、向こうの方行こうよ!」

 高嶺さんは俺の腕を掴み、バス停と反対方向へと走り出す。

 ……気が付けば俺は、その腕を払っていた。


「――ごめん。俺、このバス乗らなきゃいけないから!」


 そう言ってバスの中に乗り込むと、栗藤さんと目が合った。

 彼女は満面の笑みを浮かべ、俺はまた、つられて笑った。

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