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王子だけど、地雷を踏むヒロインより悪役令嬢の義姉の方が素敵。 《連載版》  作者: 秋澤 えで
第2部 男装王女と天然王子による恋愛大戦争

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王子様は幕を引く 6

 今日の今日で、処遇を決めることはできないとし、結局時計塔から帰ってからは元居た来賓用の屋敷に二人とも詰め込んだ。身体検査をし、拳銃と銃弾を押収。屋敷内から自殺の出来そうなものを一切排除し、屋敷の廊下、窓の外すべてに騎士を置き、室内に置かれていたボンベイ王国出身の侍従もすべてグナエウス王国の者に総入れ替え。万が一にも死なせることのないようにした万全の布陣だ。

 何の事情も伝えられていないストラースチは、泣き腫らした目をしていた二人にオロオロとしていたが、すぐにハッとした顔をして私たちに頭を下げた。何も知らされていないなりに、感じるもの自体はあったのかもしれない。

 とっぷりと日が暮れ、空に月が昇ったころ、待ち人が扉をノックする。



 「殿下、ただいま戻りました。ヒューイです。ご報告に上がりました」

 「ヒューイさん!」



 ばあんっと扉を開けて勢いのままヒューイさんを部屋の中に引きずり込み思い切り抱き着く。何事も奇襲、先手必勝である。



 「しゃ、シャングリアさま!?」

 「お待ちしていましたヒューイさん! お怪我はありませんでしたか? いえヒューイさんならボンベイの傭兵などに後れを取るようなことはないとは思いますが、私はもう心配で心配で……ちょ、力が強い。力が強いです、ヒューイさん」

 「慎みというものをいったいどこで落としてこられたのですかシャングリアさま……」



 奇襲は有効だが、一撃で仕留めなければあとは筋力がものを言う。抱き着いてヒューイさんを堪能するのもつかの間。あっという間に引っぺがされてしまった。圧倒的筋力への敗北である。だとしてもその筋力であくまでも私が身体を痛めたりあざを作ったりしないように手加減されているところに大変愛を感じるのでとてもグッドです。襲撃の応戦から戻って直接報告に来たのだろう。汗のにおいもするが、これ以上言及するといよいよ嫌われそうなのでお口にチャックする賢明な選択。



 「シャングリア、求愛行動は結構だが、僕もいるのも忘れないでほしい。僕はいったい何を見せつけられてるんだ?」

 「兄上もパトラさんにすればいいじゃないですか」

 「こっちのことが終わったも夜だったろう! 今更さすがにパトラのところに行くことも呼ぶこともできない! いくら僕にパトラ成分が枯渇していたとしても、それがパトラの睡眠時間を減らすことになってはいけない。僕はあくまでもパトラの幸せを一番に考え、おはようからおやすみまで快適に過ごしていてほしいんだ。そのための努力も我慢も僕は惜しまない!」 

 「そろそろ報告させてもらっていいですかね!?」



 引っぺがそうとする手にへばりついていたがようやくここで離す。

 シュトラウスの言に同意するのも遺憾だが、私とてもヒューイさんの仕事を長引かせたいわけではない。リスクの高い仕事を終えて帰ってきたうえ、王の報告後にこうしてわざわざ私たちのために時間を取ってくれたのだ。早々に仕事を済ませて休んでもらいたい。



 「シュトラウスさまの予想した通り、王都出発後ハボット伯領へ向かう道中、森に差し掛かったあたりで襲撃を受けました。襲撃者の数は26名。連携等はほぼなく、力押しといったところでした。狙いは王家の紋章のついた馬車のみ。シュトラウスさまが乗っていることになっている馬車だけでした。その様子からシュトラウスさまの殺害が目的で間違いなかったでしょう」

 「伝令から簡単には聞いているが、こちら側の被害と向こうの死傷者はどうだった?」

 「こちらの被害としては打撲、裂傷、火傷等の軽傷者が5名。重傷者はゼロ。ただ連れていた馬1頭は潰されました。襲撃者側の死傷者は軽傷が19名、重症が4名。死亡が3名です。自害等を試みる者はおらず、生存者は全員捕縛し収監されています。尋問については明日以降行われる予定です」

 「マートンは?」

 「軽傷です。打撲と多少の裂傷。ご心配に及ぶほどでもありません。すでに自宅に帰っていると思います」

 「ふうん。うっかり殺したのはあいつ?」

 「……監督不足で申し訳ありません。状況が状況なので、手加減もできなかったようです。一応身の安全を最優先させたのですが、止まらず……」



 遠い目をするヒューイさんの心労が思われる。奇襲への備えに加え、猪突猛進な子供のお守り。襲撃時の馬車の中は大混乱だったことだろう。



 「まあ26人中23人生きていれば尋問するにも十分だから問題ない。他に、何か変わったことはなかったか?」

 「はい、変わったこと、というより妙なこと、なんですが。襲撃者はことごとくシュトラウスさまではなく、ボンベイの第三王子、ニコラシカ殿下を狙っていたようなんです。どうしてボンベイの王子が馬車に乗っていると思ったのか、それが不思議で。行き先はハボット領。確かにボンベイからの密輸の疑いはありましたが、ハボット伯への聞き取りに第三王子が同行するとはさすがに考えづらいと思うのですが……」



 怪訝そうなヒューイさんにバレないようシュトラウスを盗み見る。

 原因はシュトラウスだ。ソーヴィシチが第2王子派を利用してシュトラウスを襲撃するだろうと予想し、あえてソーヴィシチに偽の訪問情報を与えた。そしてシュトラウスの予想通り、ソーヴィシチは「馬車に乗っているのは第三王子ニコラシカ・アレクサンドロヴィチ・ボンベイ」という偽の情報を流した。何もかもシュトラウスの掌の上なのだが、今回の件をどこまでヒューイさんたちに話すのか。



 「そうかそうか。襲撃したのはボンベイの第二王子を支持する者たちが雇った傭兵だ」

 「兄上、」

 「彼らは幾度となくニコラシカ殿下の命を狙っていた。まもなく留学期間も満期。国へ戻ってもその状態は変わらないだろう、と相談されてはいたんだ。そんな折、僕がハボット伯へ赴いて調査及び聞き取りをする、という話をした。そしてその数日後、謝りに来られてな。ハボット伯領へ向かう馬車の中にはニコラシカ殿下が乗っている、という偽の情報を流してしまった。これにより、グナエウス王国の者が彼ら一掃してくれるのではと考えてしまった、と」



 よくもまあ、これほど流暢に虚言を吐けるものだ。顔色一つ変えないシュトラウスに脱帽する。すらすらとありもしない話をするシュトラウスに肝を冷やしながら、眉をひそめたヒューイさんの言葉を待つ。



 「……では、ボンベイの者が我々を、グナエウス王国を利用した、ということですね」

 「ああ。正直謝罪された時点でハボット伯領訪問自体を取りやめても良かった。だがここで取りやめては暗殺者に屈するのと変わらない。何よりボンベイにもう一度恩を売る一つの機会だと思ったんだ。実際に襲撃が行われたなら、当然第二王子派の勢いは低下する。そして第三王子とその支持者には恩を売ることができる。ボンベイの現王においても同様だ。三男を救われた挙句、お家騒動にまで巻き込んでしまったという負い目も感じさせることができる」



 思わずすっと目を逸らす。

 要するに、他国の問題解決のためにグナエウス王国の騎士団は利用されたのだ。リスクも責任もすべてグナエウス王国が持つよう被せられた。本来ならそれは許されるものではない。だがそれを第1王子であるシュトラウスが了解している。それでも個人的に騎士たちを動かしたうえ、少ないとはいえ騎士の被害も出ている。

 今回前線で命を張り、部下たちの指揮も執った護衛部隊隊長であるヒューイさんとしては、いい気はしないだろう。



 「僕一人の判断で振り回してすまなかった」

 「……できれば先に聞かせていただきたかった、というのが正直なところです。まあ襲撃自体烏合の衆のやることで対応もさほど困難ではなかったので問題はありませんでした。このことを、陛下はご存知ですか?」

 「父上にはまだ話していない。明日また詳しく伝えるつもりだ」

 「ならば謝罪は私たちには不要です。するのであれば陛下に相談しなかったことについて謝罪してください。私たちの仕事はこの国を守ること。たとえ直接的には他国の王子を守ることだとしても、いずれはこの国のためになるのであれば、私たちは喜んで命令に従いましょう」



 ため息と苦言一つで、それ以上何も言うことはなかった。

 その反応に安心しつつも、もしこれをやったのが自分だったらめちゃくちゃ怒られるのに解せぬ、と思わないでもない。以前思ったヒエラルキーもあながち間違いでもない気がする。怒られるのは愛ゆえ、ということにしておく。うん。



 「では、私はこれで」

 「ああ、遅くまでありがとう。シャングリア、送って行ってやれ」

 「了解しました! ではヒューイさん」

 「さすがにそれは違うでしょう」



 ひらひらと手を振るシュトラウスに見送られヒューイさんの手を引き部屋から出る。


 まもなくどさくさ紛れて繋いだ手を振りほどかれてしまった。抜け目ない。結局私がヒューイさんを宿舎まで送ることはなく、仕方なく王宮の玄関までの道のりとなった。一緒にいられる時間はあまりに短い、があまり贅沢も言っていられない。ヒューイさんは無茶な注文をこなしてきた後なのだ。



 「今回の件、シャングリアさまはどこまでご存じだったんですか?」

 「すべて、ではありませんね。大まかには把握していましたが、兄上がどんな風に動くか、というのは特に聞いていなかったので。ヒューイさんにどこまでお話しするか、父上にどこまで話していたかも知りませんでした」



 さっきシュトラウスは「父上にはまだ話していない」と言ったが、当然だ。ついさっきシュトラウスが考えた内容なのだから、父上に話をしているはずがない。何よりさっきの言葉のせいでボンベイ二人の処遇が決まったも同然。私としてもまさか二人と打ち合わせなしで勝手に今後の方針を決めてしまうとは思わなかった。


 これですべてを明らかにして責任追及、処罰ルートは完全になくなった。先ほどの作り話で言うと、シュトラウスを危険にさらす可能性があるのにボンベイに情報を流したこと、グナエウス王国騎士団を利用しようとしたことについては問題はあるが、すべてをシュトラウスに話し、そのうえで策を弄したのはシュトラウスだ。精々厳重注意に終わるだろう。なによりシュトラウスが納得し、選択しているのだから。

 これで第三王子ニコラシカはほぼ無関係、主犯ソーヴィシチは情報漏洩程度だろう。機密情報の他国への情報漏洩は厳しく罰せられる内容だが、結果が結果であるため、どうなるかわからない。だが留学生という立場、祖国の者から命を狙われたという異常事態を前に、どのような対応をするかが未知数である。



 「シャングリアさまから見て、ボンベイの王子はどんな風に見えますか?」

 「そう、ですね。争いが向いてない、ですかね。闘争心がなく、権力や財産にも興味がない、みたいな感じがします」



 華やかな見た目に反して朴訥としているし、人の中にいるよりも誰もいないところでぼうっとしている方が好きだ。騒がれるのにも、見られるのにも慣れてはいるが疲れている。全力を以てファンサしつつ、それなりに楽しくできる僕やシュトラウスとは全く違う。悪口のつもりはないが、根暗なのだ。

 もっとも、そんな量産型王子様と呼ばれる僕らとは違う魅力があると言われているので、どちらがいいというものでもないのだろう。



 「偶然保養地で会った時も、本人は望んでもないのに王位継承争いに巻き込まれているようなことを言っていましたし。学園にいるときもずっと疲れているような感じがします。雰囲気としても一国の王、というよりも田舎の羊飼いとか庭師とかの方が似合ってる気がしますね。……さすがに無礼すぎました」

 「……なるほど、ニコラシカ殿下のことをよく見てらっしゃるんですね」

 「陛下から、フォローするようにと任されているので。無視するわけにもいきません」



 本当なら全力でフルシカト決めつつ、留学期間満期まで息を潜めてフラグ回避しようとしていたが、父上直々の指示とあらば従わざるを得ない。



 「ご心配なく!もちろん、ニコラシカ殿下よりもヒューイさんの方がよく見ていますよ! よく見てたいです!ヒューイさんのことなら24時間見ていたいです。おはようからおやすみまで!」



 あ、もしかし妬いちゃいましたか? かーわーいーいー! みたいな戯言で絡む機会だと、うざいと知りつつうざ絡みしてみる。ヒューイさんと軽口を交わすのが最近の数少ない癒しなのだ。まともに向き合うと心臓が不整脈を起こして精神衛生上よくない。疲れた時にはほどほどの癒しが欲しい。理不尽? 知ってる!



 「さて、本当ですか?」 

 「……え、本当ですよ!?」



 窘められるでも怒られるでもない淡々とした疑いに思わず挙動不審になる。よもや疑われるとは思っていなかった。

 パトラさんはシュトラウスのことを疑いもしなかったが、まさか私のヒューイさんに対する愛情表現が不足していたのだろうか。これはもう毎日ヒューイさんあてに私の愛をつづった手紙を送りつけるしかない!



 「以前より忙しくされているようで、あまり鍛錬場にもお越しになりませんので」

 「ご迷惑でなければいつだって行きますよ!?」

 「ふふふ、そうは仰っても来られないでしょう? 今日も忙しく、明日もボンベイ王国一行とお話をする必要がある。無理はしなくていいんです」

 「いやいやいやいや、無理とかではなく……! 確かに鍛錬の時間中に行くのは難しいかもしれませんが、個人的にヒューイさんを訪問とかなら全然可能です!」

 「未婚の婦女子がそんなことしてはいけませんよ。流石の陛下もお怒りになるでしょう」



 至極真っ当な大人の意見だが、たぶんうちの父上は諸手を上げていけいけGOGOすると思う。残念ながらうちの兄も父も真っ当ではないので。いけいけGOGOおせおせどんどんがデフォルトな家系。そして私がヒューイさん一直線なの、家族全員普通に知ってるし、めっちゃ応援されてる。父が知ったら多分親指立てる。


 確かにヒューイさんの言う通り、以前よりヒューイさんとの時間は減ってはいる。シンプルにやることが多いのだ。

 通常の学園の授業にポンコツ男爵令嬢矯正計画、爆弾ボンベイ一行の相手、情報収集、イベント回避もしくは撃退のための作戦立案。ヒューイさんとの時間が削られてる原因大体転生者たちのせいじゃないか畜生。どうして彼らは私の恋路をこんなにも邪魔するのか。というより警戒するから時間を喰われているのだろうが。だが事前準備なしであるがままを対応し続けるだけの胆力が私にない。

 ヒューイさんとの失われた時間を思い愕然とした。



 「以前と違いアドリア男爵令嬢とも今は仲良くされているとも聞いていますし、あなたの学園生活が充実しているのは好ましいことです」

 「でもあなたとの時間が減っているのは由々しき事態ですよ!?」

 「……先日耳にした話では、ボンベイのニコラシカ殿下と仲睦まじく、お似合いだ、と。第二王子であるあなたとそのような噂になるくらいなら、よほどなのでしょう」



 ヒューイさんの口から出た噂話に思わず膝から崩れ落ちそうになる。

 あったなそんな噂! そういや前にシュトラウスがそんな話してた! 

 嘘だろまじか! なんで学園部外者のヒューイさんの耳にまで届いてんの!? そんな事実無根の噂話、まさか市井に出回ってないだろうな!?



 「どこでそんな話聞いたんですか!?」

 「……アドリア男爵令嬢です」

 「アドリア嬢ぉぇ……」



 ギルティ。

 久しぶりに有罪ですアドリア嬢。なんてことしてくれてるんだ。ていうかあの子、私がヒューイさんにぞっこんなの知ってるよね? 何回か話したよね? なんで今になって引っ掻き回そうとしてんの? しかもその噂結構前だよね。 まさか結構長期にわたってヒューイさんがその噂のことまあまあ真に受けてたりする? それなんて地獄?



 「ニコラシカ殿下に構うのは陛下からの指示のためですよ!そうじゃなきゃわざわざ相手なんかしません!」

 「でもあなたなら、指示されずとも頼られれば誠実に対応して、拒むことはないでしょう」

 「それはないけど!」



 淡々と返事をするヒューイさんにやきもきする。声が平坦すぎて感情が読めない!

 そしてふと気づく。

 さっきから全然私のことを見てくれない。

 そう長くはない玄関までの道中。もう外への扉が見えてしまった。必死に弁明する私をすれ違う使用人たちが珍しそうに目を瞠る。そうだろう。私が必死になることなんてヒューイさんとのことくらいしかない。

 このまま今日が終わってしまうのは絶対に避けたかった。



 「……ヒューイさん、もしかして妬いてます?」

 「シャングリアさま、軽口も」

 「じゃあなんで私と目を合わせてくれないんです」

 「っそんなことは、」



 ヒューイさんも今の今まで気が付いていなかったようで、焦ったように私を見下ろした。そしてその隙を逃さず、限界まで背伸びしてその首に両腕を回す。



 「捕まえた」

 「シャ、」

 「ようやく私のこと見てくれましたね」



 慌てて身体を離そうとするヒューイさんには悪いが離してなるものかと両腕にほぼ全体重をかける。



 「ただのくだらない噂です。ねえ、いつかの噂を覚えてますか。私の好きなタイプは『年上で、背が高くて、銀髪青目。気高く強い。落ち着きがあり刀が扱える方』。誰のことか、わからないわけじゃないでしょう?」



 たれ目の青い瞳が、私だけを見てる。釘付けになっているその事実に少しだけ溜飲が下がった。そろそろと首に回していた両腕をほどく。



 「疑うこともあるでしょう。不安になることもあるでしょう。けれどその時は言ってください。何度だって、あなたへの愛を語ります」

 「っ……」

 「でもさすがに私としても隣にいるのに私のことを見てくれないのは、寂しくて悲しいです」



 解いた両手でヒューイさんの片手を取る。



 「一緒にいるときくらい、私のことを見て?」



 ずっと一緒にはいられないことくらい、子供じゃないからわかってる。でもいつも私が見ているばかりだから、隣にいるときくらい、その瞳に映るのは自分だけであってほしい。

 これが我が儘だというのなら、私は良い子じゃなくていい。

 袖と手袋のちょうど間。少しの隙間から見えた手首に軽くキスをした。



 「しゃ、シャングリアさま……」



 そうすれば、私のことしか見えなくなるのは分かっていたから。

 真っ赤に顔を染めて、それでも私から目を逸らせないヒューイさんに、私は一番きれいに見える笑顔で笑った。

 少しの時間やくだらない噂ごときで、私の言葉と笑顔が揺らいでしまうことのないように。



 少しふらふらとした足取りで王宮を出ていったヒューイさんを満足しながら見送り、暴れ出す感情を吐き出すためそのままシュトラウスの部屋に舞い戻った。

 帰り際の話をしたところ爆笑され、首を傾げていたところ、手首にキスする意味をシュトラウスに教えられ、時間差羞恥で心が死んだのはまた別の話である。


 恐ろしく、くだらないシナリオも、これで幕引き。

 役者は解散。あとは野となれ山となれ。

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