どうやら魔力チート魔法使いは、いらない子扱いされるかもしれないようです。
魔力とは?
・魔法を使うのに必要なエネルギーである。
・異世界では当たり前に存在する。
・生物の生命活動の深く結びつく場合がある。
・詳しい経緯は不明だが、魔石などの形で集積・物質化する。
・マナ、エーテル、魔素など、架空物質が深く関わる。
多くのファンタジー作品から特徴を拾えば、こんな感じでしょう。
でも本質的な部分は、どうやら詳しく触れてはならないという、暗黙の了解があるらしいです。
いや、実際のところ、そんなことないでしょうけど。
ファンタジーな物語を書く多くの作者さんは、そこまで深く考えず、『そういうもの』として流してるだけでしょうし。
しかし、自分は気になるのです。考えれば考えるほど、理解ができない。
だから拙作で魔法使いを出すのに、バッテリー内蔵の杖を持って、電気で魔法を使うという設定を作るくらい、触れたくないのです。
だって自分みたいなイロモノ物理論者にツッコまれた時、返答できないから。
平たく言うと、『魔力とかマジックポイント(以下MP)とはなんぞや?』という疑問にぶち当たるのです。
……『そういうモノ』で流してしまう人には、ピンと来ないかもしれないので、迂遠になるのを覚悟して、もう少し詳しく説明します。
このサイトではおなじみであろう、ロールプレイングゲーム(以下RPG)キャラクターのステータスを思い浮かべてください。
大抵はヒットポイント(以下HP)・MP、体力・敏捷性・知性・精神力といったものが代表的でしょうか? 考える方によって差はあるでしょうが、そこは重要ではありません。
とにかくそれを踏まえて、質問というかお願いです。
Q.ゲーム的ステータスで、空腹や疲労を表現してくだい。
これはゲームと現実を比較すると乖離してしまう内容です。
空腹も疲労も、過ぎれば死に繋がる重大な生理的反応です。無視するわけにはいきません。
しかしよくあるゲーム的なステータスだけでキャラクターを示すと、これらの反映は不可能です。
だって実際のゲームでこの二つを考慮してたら、わずらわしくなりますから。排泄まで組み込めば、架空人物の生活の仮想体験シミュレーターになるぞ。そんなの実生活で充分以上に体験できるっちゅうに。
なにがしかの回答を考えた方は、きっとふたつのうち、どちらかを想定したと思います。
ひとつは毒や麻痺といったものと同じ、ステータス異常として扱う。
即効性はないものの、回復手段が限られていて、重症化すると死ぬ、呪いのようなもの。
メシ食べれば、寝れば、回復するから問題ない?
平時ならそうでしょう。しかし非常時では、そんな甘っちょろいことは絶対に言えないのです。
HPなんて、わずかでも残ってたら死なないんですよ? 回復だって魔法でも薬でも安静にして自然治癒でも、方法は複数あるのです。高速再生能力を持ってる輩も、ファンタジー世界には存在するでしょう。
しかし空腹と疲労は、食料がなければ、休める環境でなければ、決して回復しないのです。致命的になる機会は少ないとはいえ、決して馬鹿にできない異常となるのです。
もうひとつはパラメーターの追加。名前はなんでもいいですが、『空腹度』『疲労度』をポイントやパーセントで示すという形です。
両方というのはないですが、どちらかならば実際に組み込まれているゲームは散見します。
空腹度(満腹度)は、最近だとMojang ABの『Minecraft』、スパイク・チュンソフトの『不思議のダンジョン』シリーズなどでしょうか。満腹だからといって特にプラスはないものの、減少して残りわずかになると行動に制限が出るなどし、ゼロになるとHPが減少する。
疲労度は、大まかに短期・長期の二種類があります。短期は連続行動の制限で、SF・アクション要素の強いゲームでは、オーバーヒートなんて形で見受けられます。長期的なものはソーシャルゲームで時折見られる、単なるゲームシステムというより、運営会社が一定の制限を設けている、といった雰囲気を感じます。
さて。本題はこの二つではありません。
先ほどの質問というかお願いに対し、『HP・MPが減少する』という設定を考えた方、いるでしょうか?
偏見込みの想像ですが、ほとんどいないのではないかと思います。
特にHPの減少――つまりダメージは『肉体の物理的損壊』を示していると捉え、飢えや疲れとは結びつかないでしょう。疲れたり腹減ったら血がブシューとか考える斬新な人がいたら、それはそれでお話ししてみたいですが。
ならばMPは? 『魔法を使って疲れる』という描写がされている作品はままありますが、それはMPの減少として取り扱っているのか考えると、首を捻りたくなります。これは複数作品で考えてるからで、単体ではちゃんと設定されている作品もあるでしょうが。
『MPが減るとどうなるのか?』という最大の問題もあります。
これはHPでも同じことが言える、ゲームと現実の乖離なのですが。
HPの残りがごくわずかだったら? 大抵のゲームだったらゼロになるまでピンピンしてますが、現実に考えれば虫の息で普通に動けるわけはない。
じゃぁ、MPが減れば? 精神的な疲労と捉えると、半減もすればまともな思考能力が残ってるとは思えません。
ゼロになれば?
HPは、ゲームの設定次第で『気絶』『死亡』がありますが、ゲーム的世界観の小説では『死亡』とする場合がほとんどでしょう。
MPの場合、ゲームでは魔法が使えない以上の制限がありませんが、小説ではほぼ気絶オンリーではないかと思います。
……気絶、ナメてません? このサイトにある小説で、異世界の住人に転生したチートなし主人公が、最大値を鍛えるために頻繁に魔力を使い果たして気絶するなんて描写がよくありますけど。
医学的に正確に言うと、『失神』と『気絶』は異なります。『失神』とは一過性意識消失発作・脳貧血です。急に姿勢を変えた時などに起こるクラッと来るあの感覚、あれが酷くなって意識を失うとでも思えばいいでしょう。対して『気絶』とはプラスして、自発的な呼吸ができない状態も含むそうです。短時間の意識喪失を総合して『気絶』と呼び、ちゃんと呼吸している場合は『失神』と言い直す場合もある、という形です。
そしてどちらにせよ、なんらかの要因で神経・心臓・血管に異常を来たし、脳への血流が瞬間的に遮断されるために起こります。
さて、頻繁に失神するとなると、心臓病や糖尿病・不整脈などの持病、自律神経系の異常を持つ場合が多いのですが、魔法使いが心身ともに健康だとしましょう。
生理学的プロセスは不明ですが、健康な魔法使いでも魔力枯渇すれば、一瞬心臓が停止して気絶すると考えたら、その危険性はご理解いただけるでしょう。
こんなこと何度も意図的に繰り返していたら、『失神』ではなく『気絶』つまり呼吸停止する大当たりを引く可能性が高まります。心臓停止だって『一瞬』で済むか不明です。脳出血かなにかで突然死しても不思議なく、命を取り留めたとしても重大な後遺症が残る危険もあります。よく物語では魔力枯渇を訓練は、成長する前の乳児期・幼児期に行われるパターンが多いですが、子供の体はヤワで血管が切れやすいので、一層危険が増します。神様パワーで守られてるかもしれない主人公当人はともかく、なんら変哲ない異世界の住人に、こんな危険な訓練法を薦めるのは絶対にやめて頂きたい。
なんだか話がズレてきた気がするので、元に戻します。『魔力とはなんぞや?』という疑問でしたね。
ぶっちゃけ、正体なんぞ、ここでは定義できません。あまりにも都合がよすぎます。それでも設定するなら、作品ごとに作る内容です。現状を見る限り、ほとんどは今後も設定されないでしょう。
以上です。
…………これで終わるのは情けなさ過ぎるので、のんべんだらりともう少し考察をしたいと思います。
魔力というものが確かに存在する。これは不変の前提として定義します。そうしないとなんの話も進められないので。
魔法を使うために、魔力というエネルギーが必要である。
そうすると、外的なものか、内的なものか、二種類の考え方ができます。
【1.外的に存在するエネルギーを利用する】
一番わかりやすいのは『召喚』『精霊魔法』といった、多くの人が想像する魔法とは違う術でしょうか? 古典的かつオカルティックな魔法というものは、これです。代償と引き換えに悪魔を召喚し、力を借りて現実には起こりえない現象を起こす。
最近のなろうファンタジーだと、魔法陣や符などもこの形式に近くなっていますね。主人公が魔法を使えない。だから外部デバイスを用意する、なんてパターンも散見します。
もっと単純に、自動車でもいいんですけど。魔法使いはドライバー。魔力はガソリン。効果の違いは車種で。
逆にわかりにくい? じゃあ蛇口で。静岡だったらお茶、香川だったらうどんダシ、青森や愛媛ならリンゴジュースやオレンジジュースが出てくる蛇口もあるみたいですし。
魔法使い当人が、直接的になにかするわけではない。指示や操作にエネルギーを使うことはあれど、間接的なもの。
魔法という現象を引き起こすエネルギーは、大気中・異界など、外部に存在する。魔法使いに求められるのは、適切な放出と操作をする能力。エネルギーが炎になるのか氷になるのか、元から違うのかプロセス途中で変わるのかは不明ですが、召喚に限らず魔法という現象は、全て外部の力を借りているというわけです。
となると、魔力と呼べるものが、二種類存在するのです。
ひとつは、魔法の効果を生み出す、直接的なエネルギー。蛇口でいえば水道管を流れている水です。
もうひとつが、魔法使いが持つ放出能力と操作能力を合わせたもの。蛇口の大きさと放水限度、状況に応じて栓を開ける精密操作性。
前者は無限ないし無視できる莫大な量と見なせるので、ステータス的に表される『魔力・MP』とは、自動的に後者になります。単なる水汲みだけに留まらず、凶器にもなる水圧の上、うっかりすると麺汁や墨汁が出てくる蛇口だから、選び方・ハンドルのひねり具合に神経遣わなければならないのです。料金は先払い式で、放水量の限界が前もって定められています。追加はMPポーションでチャージしてね?
さて。物語を作る上では、一応この設定でも問題はないのです。
ただこの世界は、なかなか危険となってしまうのが問題です。それを利用したエピソードも作れてしまうので、作者の立場なら利点にもできますが。
操る元のエネルギーが、身近すぎて、大きすぎるのです。
さんざん水道で話をしているので、それで続けましょう。
水道管破裂。路上に埋め立てた管ならば、かなり大規模浸水しますから、ニュースにもなります。もっと小規模、アパートの部屋が水浸しになるレベルなら、全世界的に見れば頻繁です。
そして魔力というものは、多ければいいってものではないみたいです。野生動物が魔力の影響で魔獣化するなんて設定、珍しくないですから。瘴気という設定もよく見ますが、これが魔力なのかは不明ですが、影響を受けた生命体が強いというのもよく見る設定なので、同じであると考えます。
つまりこれも水道管破裂のように、エネルギー流動の事故による影響だと推測します。噴き出すのが飲める水だったとしても、泥と混じれば悪臭漂う汚水です。
ここまではまだいいのです。異世界に済む人にとっては、充分にたまったものではないでしょうが、自然現象なのです。可能な限りの対処をしても無理なら、覚悟を決めて生活するしかありません。諦めもつくでしょう。
しかしこの事故、人為的に起こしてしまう可能性が充分あるのです。
蛇口が壊れた。
この一文だけを見ると、どういう状況を想像するでしょう?
きっと多くの人は、水が噴出して止められない状況を思い浮かべるのではないかと思います。逆の場合は蛇口のせいかわからないため、ただ『水が出ない』と表現するでしょう。
暮らし安心クラ●アンの出番です。水道トラブル5000円です。
対して、魔法の発動に失敗。
この一文だけを見ると、多くの人は『なにも変わらなかった・起こらなかった』と見ませんか?
そして、魔法が暴走。
この一文だけを見ると、大惨事を想像しませんか?
不思議ですよね。『魔法の発動に失敗』して、大惨事が起きるかもしれないのに。
つまり魔法使いが能力を使おうとするだけで、大惨事がいつ起こっても不思議はないのです。
特に危険なのは、人生で初めて魔法を使う瞬間です。
水をせき止めていない水道管に穴を空けて、支流を作ろうとしてるわけです。蛇口の大きさがどうとかなんて問題じゃありません。小さくても充分惨事が起こりうるわけです。
問題なのは、すぐさま状況に対応――支流のパイプを接続する制御能力です。
初体験はわからないことだらけです。しかも誰かに質問すればわかるものではありません。HowTo本でも情報不足です。結局はギコギコ試行錯誤しながらパイプを穴に挿入して、相性と共にどこまで無理が効くのか確かめてみるまで実感としての理解など不可能です。
太ければいいってもんじゃないのですよ。というか太ければ太いほど大惨事になりうるのです。支流パイプが太くても、本流はそれに対応できる流量があるってことですから、大きな穴を空けた途端に洪水です。満杯のダムに穴空けて新たな放水口作るってイメージの方が近いかも。
しかも魔法使いが特別ではない=いっぱいいるという世界観では、この事故が起こる確率が上昇することになります。
古典的な物語だと、隠棲してるからいいんですけど……最近のファンタジーだと、魔法使いも普通に都市部で生活してますからねぇ……
異世界はこんな人間爆弾が身近にいることになるようです。
【2.内的に蓄積されたエネルギーを利用する】
魔法使いの体にエネルギーが蓄積されている。
多分、魔力というものを問うたら、こちらを想定している人がほとんどでしょう。これも外部のエネルギーを利用しているということになるのですが。
しかもここから先の細分化は不可能でしょう。
体力であり、精神力であり、生命力である。
しかしそれらとは一線を画す。
魔力の特徴を拾い上げていくと、複合的になってしまうのです。
まぁ、魔力の正体は問わないことにしたので、別路線で考えましょう。
この設定には問題――というか、決定的な矛盾が存在します。
魔力の影響でただの動物が魔獣化する。珍しくない設定です。
なら、大量の魔力を持つ人間は、魔人化しないの?
これを説明できないと、魔法使いを珍重するなんて、とんでもないことだと思うのですが?
この魔人化した人間を『魔法使い』と呼んで区別してるってこと?
魔法使いが石投げれば当たる世界観だと、それも通用しないよ?
よく悪役として出てくる魔族となにが違うの?
そこは百歩どころか一億歩ほど譲って、問わないことにしましょう。
しかしまだ問題が存在します。
魔力の多い魔法使いは、最悪の場合、存在するだけで人間の生存圏を狭めます。
ゲームキャラクターのステータス的には、MPの最大値というのは、袋の大きさです。
その中身を満たすには、外から持って来るしかありません。
要するに食事することで、魔法使いは体内に魔力を蓄える。あまねく物質に魔力が宿ってるなんて、よくある設定でしょう。緊急時に飲むポーションは、高濃度の魔力が溶けているから、摂取すれば回復すると。
……魔力の正体って脂肪? 魔法使いはみんなメタボ? 魔法の行使はエクセサイズ?
いやいや、正体は触れないことにしたので、それはさておき。
魔法をバカスカ行使し、魔力が残りわずかになった。
するとその回復は、食事か薬の摂取で行うしかありません。
袋の最大値が多ければ多いほど、満タンになるのに時間がかかってしまうのです。
……チート主人公さん? よく魔力がケタ外れに多いなんて設定、持ってますよね?
最大値がケタ外れに多かったら、普通の魔法使いが一日の食事で魔力が回復できるところを、ケタ外れに多く食べなければ、満タンにはならないのです。
あるいは大枚はたいてクスリに頼るしかないのです。不健康そうです。
いざって時の強みにはなりますけど、普段使いとしては問題です。買い物や通勤に使う自動車が欲しければ、燃料タンク容量40リットル程度の普通自動車と、1272リットルの九〇式戦車、どっちを選ぶかという話です。いやこの例は別の要素が絡む極端ですけど。
しかし、そういったチート主人公さんは、魔力の自動回復なども合わせて持っていることが多い。
だから問題ないぜ! と主張する人もいるでしょう。
実はこれが一番迷惑です。
無から有は作れない。
魔力がなければ魔法は発動しない。魔法のような不可思議現象でもこの物理法則が成り立つ様子のため、この設定の場合、魔力はどこかから体内に取り入れるしかありません。
魔力の自然回復は、周囲のマナやら魔素やらを取り込んで蓄積していると考えるのが自然でしょう。
想像してみてください。排水口に栓をし、水を溜めた洗面台を。栓を抜くと、水はズモモ……と渦を巻いて排水されます。
これがチート主人公の周囲に作られる、魔法的な視点で見たイメージ空間です。
周囲の魔力・魔法的因子を、根こそぎ吸引してしまうのです。近くにいる他の魔法使いは、同じように空間の魔力を使って回復させることができません。
内政・技術チートして、魔法使いでなくても使えるよう、周囲の魔力を使った魔道具などを普及させていたら最悪です。停電ならぬ停魔により、街はチート施工前の暗黒に閉ざされます。
魔石・食べ物・物質に含まれる魔力は自然放出されるのか不明ですが、もしするならば、一定範囲内には魔力の過疎地帯が出来上がります。生物に対してはドレインなどと呼ばれる別能力が必要そうなのが幸いですが、あまり慰めにはなりません。
……魔力が薄い土地は不毛の地って世界観、結構ありません? 特別触れられてなくても、木々が多い場所は力が濃いって設定があったら、逆説的にそうなるんですが。
古典的な物語だと、隠棲してるからいいんですけど……そこだったら魔力濃度が濃そうだし、魔力減る機会も少ないだろうし……でも最近のファンタジーだと、大魔法使いも普通に都市部で生活してますからね……
異世界にはこんなはた迷惑な人間掃除機がいることになるようです。
やはり魔法というのは、人ならざる能力であり、そんなものを身につけてしまうと、人と交わるのが難しくなるようです。
日本語における魔法は文字通り、人が生きる真理である仏法と相反する、魔羅の法。
そんなものを操る力を備えた存在が、人と同じように生活できると望むのが、おこがましいのかもしれません。