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スカイフィッシュを虫かごに

作者: Q作くん
掲載日:2015/05/13

 丈高い雑草の中を走っていた。剥き出しの肌に切り込みが入り、薄らと赤い線を生む。葉っぱも凶器になるのだと、幼い元太は学んだのだが、だからといって駆けることを止めてしまうほど、身の内にため込んだ若さは弱気ではなかった。

 元太はたすき掛けした虫かごを揺らしながら、ぐんぐんスピードを上げていく。切り傷なんて唾つけときゃ治る。祖父の元蔵の口癖は、確実に元太の常識となっていた。

 とはいえ痛いのはやっぱり嫌なので、元太は虫取り網を刀に見立て、ちゃんばら振りで雑草をなぎ倒していく。すると―

「痛い!」

 どこかで声がした。

 元太は足を止め、回りを見渡すが、丈高い雑草は天然のカーテンとなって、元太をかどわかす。

「誰かいるのかい?」

 元太が声を投げると、丈高い雑草が風に揺れ、さらさらさらと音を立てる。

「……」

 元太は何だか怖くなって、再び駆け出す。

「待ちなよ。あやまりもなしかい?」

 途端、元太のすぐ後ろから声が掛かる。おとなの、女の人の声だった。元太はいよいよ怖気に負けて、「うわぁぁぁん」と泣きべそをかきながら疾駆した。だが、どこまで駆けてみても、元太が雑草林を抜けることは終ぞ出来ずじまいだった。


警察:「どうして元太くんは一人であの雑草林に?」

母親:「夏の、昆虫採集に行くんだって……スカイフィッシュを捕まえるんだって……うわぁぁぁああ」

 泣き崩れる母親を見て、警官は思った。

(お母さん。スカイフィッシュは、いないんですよ。あれは、ただのカメラに映り込んだ光の屈折なんですよ)


 遺体が発見された時、元太の虫かごの中には折り鶴が一羽入っていたらしい。草で折られとは思えない、それは見事な鶴だったそうだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めてすぐ、情緒溢れる描写にアレ?Q作くんだよね?となりましたが、とても好みでしたので走る草むらの中に私も入りつつ読み進めましたところ、やはり落ちにはQ作くん節が待っておりましたね。
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