91.
「……閣下、大丈夫ですか」
親兵の一人が、ぼんやりとしている岩屋へ声をかける。外は、先ほどまでの街並みとは一変して、田園風景が広がっている。作付けが終わったようで、今は稲の苗が、一面を覆い尽くしている。田に張った水が、雲がわずかに浮かんでいる程度の空を見事に反射しており、キラキラと輝いている。
「ああ、大丈夫だ」
岩屋は、ぼんやりとしていながらも考えていた。奉王将軍について、ライタントについて、ラグについて、そしてサザキについて。サザキを復活させるために必要な物は、岩屋の頭脳と、この世界の科学水準だ。DNAを抽出する技術は未だなく、そのための研究もおこなわなければならない。また、それまでの場つなぎとして、サザキそっくりのロボットを作るということも勧めていかなければならない。
一方で、これから会う予定である奉王将軍との謁見が無事に終わらなければ、これらの計画は、計画で終わってしまうだろう。そのことを、今、岩屋は最も危惧していた。
「奉王将軍は、どんな人なんだろうな」
つぶやいた言葉に、親兵が反応する。
「女性だと聞いております」
「女性なのか」
そうですと親兵は答えた。その目は、知らなかったのかと言う泥木の芽をしているが、同時に侮蔑の意味も含まれているようだ。だが、岩屋はすでに知っていた。それでも、そう答えたのは、これまで見てきた将軍2人は、男ばかりで、どうにも先入観があったからに違いない。
「そうか、女性か……」
女性とはあまりいい縁が無い岩屋ではあるが、それでも、女性と一緒にいるという時間はいい。それは、男としての本能なのか、それとも、別の何かが原因なのかは、全く分からないが。
馬車は、それでも走っていく。何もかもを載せて。これからの夢と希望と、絶望と悪夢を載せて。




