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「それはできないのは、ご承知でしょ」
シトルンは当然のように話す。岩屋もここで、ハイそうですかといくとは毛頭考えていない。ただ、一応聞いておくのが礼儀と思っただけだ。
「もしも、ここでその子を元に戻したら、貴女をその子の母親としましょう。誰にでも両親はいりますから」
それは徐々に懇願のような声になっていた。だが、シトルンが思うことはない。この場から離れ、サザキと静かに暮らす。誰からも邪魔されることはなく、誰にも気づかれることなく、平穏に暮らす。それが彼女の望みだ。それを岩屋は叶えてくれるかもしれない。しかし叶えてくれないかもしれない。今はシトルンの命は助け、養母としてくれるかもしれない。でも、10年後、20年後、さらびもっともっと先まで、それを守ってくれるかどうかは、全くわからない。笑いながら人を殺すような人を信用することが無理という話だ。だから、シトルンは、この状況において最適だと思う行動をとった。すなわち、岩屋たちから逃げるという行為である。




