905.
「救護所までご案内します」
言いつつも、近寄って来た兵が自身の上着のすそのポケットから、トランシーバーを取り出す。
「えー、いいわよぅ。そんな優しくしなくても~」
言ったとたん、彼女は酒瓶でトランシーバーを叩き落とした。パンと破裂したような音が兵の耳に届くよりも先に、割れた瓶を彼女に照準を合わしている銃を持った兵士へと投げつけた。それが銃にあたり、空へ銃口が向くように照準が狂う。その直後、ようやく兵士が何が起こったかを頭が理解した。しかし、反応するのはそれからさらにコンマ数秒かかる。その隙間が、生死を分けた。すでに準備万端である彼女と、一瞬のことで何が起きたかわからない兵士二人では、一瞬で勝負がついた。
発射しようと引き金を引いた指によって、銃弾はあらぬ方向へと飛び去っていく。音は球状に広がっていくが、撃たれたという発射炎は光の速度で球状に広がる。近寄った兵は後ろを振り返ろうと首を曲げ始めるが、彼女の両手により、ありえない速度で回される。バギリと嫌な音が鳴った。頸椎が折れ、脊椎や神経が切断した音だ。瞬時に呼吸筋へつながっている神経が切断。即座に呼吸が止まり、窒息状態となる。突然のことで、混乱している兵士に対して、彼女は極めて冷静だった。ゲートのそばが静かになっていたのも、彼女に味方した。銃で狙っていた兵士へと、窒息している兵士を投げつける。そこに第二射。引き金が引かれていたため、残っていた弾が発射される。さきほどからさらに上へと上がっている銃口から打ち上げられた弾は、どこへ落ちるかわからない。それが落ちるよりも先に、彼女はさらに兵士の肉体に蹴りを入れる。加速していく肉体は、そのままもう一人の兵士にぶつかった。それにより引き金から指が離れ、それどころか銃が手から離れていく。それが地面へと着くよりも先に彼女は勢いよく駆けだして、そして空中で手に取った。
「だって、私、酔ってないもの」
一発、残っててほしい。それが彼女の願いであった。それは実現のものとなった。引き金を引き、中から銃弾が撃たれる。3発目、たまたま残っていたのか、はたまたそういった構造なのか。それは分からないが、撃てただけで十分だ。照準もくるっておらず、落ち行く彼へと銃弾は命中した。まだ息がある兵は、脳に銃弾を受けた。頭蓋骨を貫くと、銃弾はためらいなく脳へと到達する。そして、銃弾の運動エネルギーが頭全体を揺さぶっていく。銃弾は破片となり、脳を引き裂いていった。そのうちの一つが、大動脈輪へ接触し、それを切断する。地面につく前に、脳は完全に機能を停止した。
それに追い打ちするように、脳を撃たれた兵士は地面へと激突する。揺り返しのように、脳は頭蓋内を跳ねまわり、血が噴き出す。
「さよなら、名も知らぬ兵たちよ」
銃をその場に捨て、彼女はすぐにゲートをくぐる。騒ぎになるのに、そう時間はかからなかった。




