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そして、出立の日がやってきた。武装した兵が、そこここに立って、誰彼問わずに威嚇をしている。どこからテロリストが岩屋たちを狙っていても、すぐに対処することができるようにだ。第一に撃たせないと言う前提も存在しているが、それでも網に隙間は存在しているのと同じように、どこかに漏れは存在しているだろう。そのために第二の防御網として、親兵と呼ばれる護衛が存在している。彼らはとにかく護ることに徹する。SPに近いと言えばいいだろう。奉執将軍や奉葎将軍といった将軍に対しては、これぐらいの警備でもまだ不十分だと言われる。どこから狙われているか分からないからだ。
だが、岩屋はそれ以上の警備を要求しなかった。予算が無かったということもあるが、あまり敵がいないということもある。同行するラグも、岩屋に準じる警備態勢が敷かれた。但し、岩屋戸ラグの胸部から腹部にかけては、最新の防弾服を着用しているため、そこを狙ってもほとんどダメージは無い。テストでは10メートル離れたところから、銃で撃ってみても貫通することはなかった。その代わり、重さは10キログラムはあり、平然としながらそれを着ると言うことは、なかなか難しいことであった。だが、そのことは、ライタントと岩屋とラグしか知らない。
岩屋とラグは、ライタント以下高官や官僚、軍、その他民衆からの声援を受けていた。奉執将軍の王宮の正門は、いつも以上ににぎやかだ。4頭立ての馬車が2つ、さらに複数の騎馬兵と、護衛兵がすでに勢ぞろいしている。後は、親兵に囲まれるようにしつつ、岩屋とラグが馬車に乗り込み、出発するだけだ。
今のところ、ライタントへの引き継ぎと、言葉を交わしている段階だ。
「では、これからのことは頼んだぞ。何かあれば、君が判断してくれ」
岩屋がライタントの手を両手で包むようにして握りつつ、伝達をする。みんなの見ている前と言うことが重要で、これによって、確実にライタントが代理だと言う宣言にもなっている。同様のことは、ラグも岩屋と同じようにして伝えた。
「分かりました、お二方の帰りをお待ちしております」
このあたりは型通りの答えだ。ライタントも、代理を長い間してきたために、かなり馴染んでいる。誰もがライタントの命には従うだろう。だが、それでも権威と権力が正しく継承されているかを全員に知らしめる必要があるわけだ。これはその必要な儀式である。




