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「どうかしたのですか」
「いや、ここに来る前を思い出していてな」
ずいぶん昔の記憶だ。彼にとって、すでに何十年と昔の話となる。つまり、妻と娘が交通事故で死んだということだ。発電機を作り、時間を巻き戻そうと考えていたのも、ずっとずっと昔。
「…つと、忘れていたことさ」
岩屋はそういいつつ、保育器に入っている女の子を観る。その眼は、慈愛に満ち溢れていた。そんな岩屋を見て、ライタントはふと尋ねた。
「名付け親になっていただけませんか」
「無論だ」
岩屋は、少しの時間も挟まずに答えた。




