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部隊長はすでに岩屋へと向き直っている。岩屋は、ふぅぅと細く、そしてとても長い息を吐いた。肺の空気を全部出したかと思えば、それから一気に空気を吸い込む。屹と前を向く。目の中には周りなんてすでに見えていない。ただ一人、倒すべき敵、自らに挑んでくる者がその視界のすべてだ。
何も言わず、軽くステップを踏むように岩屋は駆ける。槍先は、迷うことなく部隊長へと。だがその先には部隊長はいない。部隊長は槍先を滑らせるようにしてしのぐ。そして速やかに反転。今度は柄を使って岩屋は槍を弾き飛ばした。
「なかなかやりおる」
「そちらこそ」
汗が全身から滴る。ただ一度組んだだけで互いに分かった。この者こそ、最大の敵となりうる存在であると。そして二人とも願った。再びまみえる機会があることを。しかし、それがないことは二人が一番知っていた。長期戦になることもなく、おそらくは何か二人の周りの空気によって、即ち幸運な者が勝ちとなると。




