83.
翌日。岩屋とラグ、それにライタントと他の高官たちが、王宮正門で勢ぞろいしていた。どうやら、勅使であるヒラハを見送るためらしい。この時代には似つかわしくないような大きな車が正門に滑り込んでくる。馬車ではなく、エンジンで動いていることから、どうやらどこかでガソリンを作る技術を手にしているようだ。当然、ガソリンはわずかしか取ることができない。蒸留設備は、昔岩屋が設計したモノを使って、試しで精製されているためだ。
実は、この車は、見送り用だけに造られた短距離走行用の車であり、後々に手軽に分解できるように作られている。そのためか、離れたところでは馬車が用意されており、たまに馬のいななきが聞こえてくる。それでも、車で途中まででも送られると言うことは、この世界においては、最高のもてなしであった。
「それでは、奉王将軍によろしくとお伝えください」
「ええ、確かに」
ヒラハは、最後にラグ、そして岩屋と握手をする。そして、ゆっくりとドアが運転手の手によって開かれ、そこに乗り込む。窓ガラスを内側にあるハンドルで開けると、岩屋たちに告げた。
「また、お会いできる日を楽しみにしております」
「こちらこそ、指折り数えて楽しみにしております」
それから窓ガラスを閉めると、車は発車した。同時に、岩屋たちは一斉に頭を下げて、ヒラハを見送った。




