832.
下からの風がすさまじい。服がバタバタと喘いでいる。岩屋の目の前には、奉楽将軍がいるのがみえる。だが、何を言っているのかは分からない。あらかじめ決めていた通りに事を起こすしか、もはや道は残されていなかった。
落ちていく感覚と言うのは、いかに表現しようか。岩屋はそのための語彙を持ち合わせていなかった。しいて言うのであれば、地獄と分かっていながらも突っ込んでいるということだろう。それだけでも十二分に恐ろしいと思えることなのに、今の岩屋にはそれが楽しみで仕方がなかった。今までにない高揚感、落ちていく体を包み込んでいくような興奮は、まさに戦場の空気を直接受けている。
「久しく味わっていなかったな……」
誰に聞こえることもない。岩屋は言葉を体に巻き付けて、航空機からの降下を楽しんでいる。すでに1分以上経過している。眼下には、巨大ともいうべき建物がある。奉執将軍の省城がいくつでも入りそうな、そんな広大な直城が広がっている。その中心の巨大な建物が奉王将軍の宮殿だ。最終的にあそこにいくことになるが、警備が厳重であり、上空からであっても対空機銃や、据置臼砲のような大砲の類がみえる。それらを避けるため、直接降りるのではなく、すぐそばにある練兵場へと着陸することにした。




