81.
「奉執将軍殿、ヒラハ殿。演説ありがとうございます」
一礼し、岩屋とヒラハ二人にラグがいう。それから、前を向き、語り始めた。
「さて、一人の心は皆の心ということわざがあります。これは、集団の1人の気持ちを、集団全員が共有すると言うことを意味しています。集団と言うのは、人数が多くなるに従って、この傾向から離脱する傾向にあります。これは一人の心に集団全体が察しなくなるためと、考えています。ならば、この集団全体に一人の心を察するようにするには、どのようにすればよいか。これは、極めて簡単な話でしょう」
話は、一旦切られ、わずかな間が生まれる。その間に、若干ワインをラグは飲んだ。
「指導者となることです。上に立つ者は、集団の中でも特異な地位を占めることになります。すなわち上に立つという地位です。指導者の気持ちは、集団に共有されることになります。ゆえに、指導者は集団を左右すると言うことになります。奉王将軍は、我々と言う集団を率いていくべき指導者でありましょうか。答えは、その通りだということになるでしょう。しかしながら、集団が広がり続けるにつれ、果たして正しく指導者の気持ちが理解できるのでしょうか。これについては難しくなっていくとお答えするしかないです。そのせいで、指導者の気持ちを理解できずに去りゆく人も現れるでしょう。それについて、指導者は集団の所々に正しく指導者の気持ちを理解できる手助けをする人物を配置することになりましょう。これが私とここにいるもう一人、奉葎将軍や奉執将軍、その他の複数人いる将軍となるわけです。では、このような補助指導者とも言うべき人は、真に指導者の気持ちが理解できているのか。これについては残念ながら、理解できていないであろうと答えざるを得ないでしょう。その人の気持ちを理解するために手助けとなることはあっても、その人の気持ちを理解すると言うことは、その人以外でなければ不可能であるからです」
ラグはここで話を遮って二口目のワインを飲む。
「その一方で、偉大なる指導者ともなれば、その集団は何十億と言う人々をつき従えさせ、その威光は国土のはるか遠くまで響き渡り、決して色褪せることない文明文化を開く事ができるでしょう。私は、その一助となることができ、大変嬉しく思います。そのため、奉王将軍からの謁見の日付を違えることなく、また必要となるであろう事柄を全て奉王将軍に隠すことなくお見せしましょう。それ以外においても、奉王将軍の意向を広く知らしめることが必要でありましょう。ならば、その手伝いをすることも必要でありましょう。奉葎将軍として、奉執将軍とともに、奉王将軍の御代が永久に続くことを祈念いたしましょう!」
ラグは、それでは乾杯をしたいのでお手を拝借といい、一気に高々とワインコップを掲げた。
「弥栄に!」
三々五々、言葉が紡がれていく。この奉王将軍に対する祝福の言葉は、後にヒラハによって直接奉王将軍の耳に入ることとなるのだが、それは、これとはまた別のお話。