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続いて、岩屋たちが勅使と出会うのは、公式晩餐会の場においてであった。晩餐会のメニューはすでに勅使に提示されており、それによれば、食前酒、オードブル、スープ、魚料理、肉料理、パンとチーズ、そしてデザート。最後には、食後酒がふるまわれることになっている。適時、それらにお酒としてワインが加わるわけだ。食前酒や食後酒については、銘柄は最高級であり、なおかつその時々に応じた物が、特別に選択される。
特にワインについては、必ずと言っていいほど、ふるまわれる銘柄を言わなければならない。それ次第で、相手がどのような応対をしているかを察することができるからだ。そのために、岩屋やラグは、そのワインのセレクトに細心の注意を払っていた。
「ほう、このワインに巡り合えるとは……」
「ええ、最高の賓客には、最高のおもてなしを。これが我々の信条です」
勅使が感歎の声を漏らした横で、岩屋がささやく。ワインの銘柄を岩屋がさらさらと言ってのけたのに驚いているというよりかは、ワイン自身に驚いている雰囲気だ。それもそのはず、今回の公式晩餐会で勅使に差し出されたワインは、ラムトック里の特別に栽培されたブドウによって作られた、最高品質のワインである。さらに、瓶を詰めたのは伝説とも言われているラ・ファルシュイヤーという人物だ。生産年は309と書かれている。309年は、今から14年前であり、ワイン好きなら飲まずにおれないと言われる希少性の高い年だ。元の世界の人たちでは、ビンテージ物と言われるものである。
ファルシュイヤーという人は、ラムトック里の里長を務めており、全国ワイン品評協議会会長、ワイン品質管理士の大監督と呼ばれる、最高格付けを受けている。その人が瓶詰し、生産したワインは、年間に30本ほどしか出回らず、1本がおおよそ高級住宅10軒分に匹敵するほどだ。ただ、当の本人は、ワイン好きが高じた趣味人と称している。
「しかし、これほど高いワインを出すとは」
「最高の賓客でございますので」
ニコッと岩屋は笑って勅使に答えた。