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そして、3日が経つと、きっちり奉王将軍からの勅使がやってきた。出迎えるのは、奉執将軍の直城においてである。だが、いるのは、使者として奉王将軍に謁見してきたライタント、奉執将軍のである岩屋、奉葎将軍であるラグだけだ。
他の人たちは、一応儀典官はいるものの、大勢で出迎えるのは否であると儀典集に記されていたので、歓迎式典の裏方として、走り回っているにすぎなかった。
「ようこそおいで下さいました。どうぞこちらへ」
岩屋が勅使を迎え入れる。うむと威張って建物の中に入ってくるが、その直後、わずかに固まった。それもそうであろう。玄関には、巨大な花瓶と、生け花をあしらっているのであるのだから。調べてみると、この世界には花をめでるという風習が無いらしく、ならばと岩屋が指示をして作らせたものだ。
「いかがでしょうか。これは、花の躍動感を表現しております」
「…そうか」
一言で、会話を終わらせる能力というのは、この勅使特有であることを、岩屋は切に願った。奉王将軍と出会って、一言で会話が終わられたならば、どのようにしてその場を取り繕えばいいのかさっぱり分からないからだ。
「では、こちらへ。お部屋へご案内いたします」
そこからは儀典官に全てを任せ、岩屋たちの前から、勅使はいなくなった。ふぅーと細く長い溜息をついて、岩屋はどうにか、直視を最初に出迎えると言う大役を終えた。
「あれでよかったのかなぁ」
「結構でありましょう。多くは先方も求めておりません。今回はあくまでも、儀礼的な事柄であると割り切っておられるでしょうから」
「そうか、それを聞いて少しは安心した」
ライタントの言葉に、岩屋はわずかではあるが、ホッとした。それでも、これからまだまだ滞在の予定はある。気を抜く暇は、全くなかった。




