70.
「つまりだ。僕はシャホールを創る。そういうことだ」
「少女の姿に似せた、というシャホールですか」
驚いたように話しかけているのは、ラグだ。ラグは、本気で岩屋が作りたがっているということを直感で理解していた。だが、作れるかどうかというのは別問題だ。
この世界では、シャホールつまりロボットは、小説の中の存在でしかない。それゆえに実現できると考えている人は一握りだ。ラグは、その一握りに入っていなかった。当然、ライタントもである。しかし、岩屋はその一握り側の人間であった。そもそも元の世界では重力発電の装置を造るということもしていたのだ。シャホールを作ろうと考えて、時間と資材と電力さえあれば容易に作り上げるだろう。
「そういうことだ。そのため、しばらくはその研究に集中しようと思う。当然、日々の仕事の一部は君たちに任せると言うことになってくるだろう。それでも、着いてきてくれるか」
「もちろんです」
すぐに返事をしたのはラグだ。奉葎将軍の地位を約束されたのだから、それをみすみす捨てようなぞと思わないだろう。その一方でライタントは一瞬悩んだ。辞表を出して辞めようとも考えたことがある仕事だ。これ以上するということもないのではないだろうか。それでも、代理職を辞めてから、次の仕事のあては全くない。とすれば、ライタントはこの仕事を続けるしかない。
「着いていきます」
おそらくラグが返事をしてから1秒も差はなかっただろう。ライタントも返事をした。岩屋は二人の返事に満足したようにうなづいた。
だが、奉執将軍、奉葎将軍として周知してもらい動くためにはもう一つしなければならないことがあった。それが、奉王将軍と会い、承認してもらうことである。岩屋がシャホールを造る研究をはじめる前に、それをしなければ、ここから追い出されるということも考えなければならない。岩屋が奉執将軍と奉葎将軍を殺したことは、すでに周知の事実である。しかしながら、それが事実であるかどうか、それを認めてもらうことが必要となる。儀式的な側面が強いが、それによって正当な後継者だと認めてもらえるのだ。
ラグがこの席で岩屋にそのことを伝えると、少し考えてから二人に命じた。
「そのようなことは早めに済ませた方がいいだろう。すぐに奉王将軍との会談をセットしてもらいたい。当然、その儀式に必要な事柄も全てリストアップを」
「はっ、閣下」
ラグはすぐに敬礼をして執務室から飛び出す。ライタントはその場に侍立しているが、岩屋は特に何も言わなかった。