69.
「さて、ではこれからの予定を2人には知らせておこう」
岩屋はいよいよ本題へ入ることとなった。これからの予定についてだ。新たに奉葎将軍に指名されたラグと、奉執将軍の代理を務めているライタントの2人には、あらかじめ知らせておくべきであると考えたからだ。岩屋は、前置きもそこそこに、胸ポケットから1つの袋を取り出して、2人に見せる。
「何か分かるか」
「どなたかの髪の毛、ですね」
「そうだ。これは、僕が娘だと思って一緒に居た少女の髪の毛だ。もう1か月ほど前に死んだんだがな。それが、奉執将軍を殺した理由でもある。そして、いつの日にか、彼女を蘇生させるということを誓ったわけだ」
「蘇生って……」
「この世界では、まだDNAという単語は知らないだろう」
二人に、どうなんだと岩屋は尋ねる。ラグもライタントも首を左右に振り、聞いたことがないということを知らせる。その通りだ。この世界はまだそこまで科学水準が達していない。岩屋は、ため息をついて、DNAの説明を回避するように説明する。
「簡単に言えば、そっくりの人を創ると言うことだ」
「人が人を創ると言うのですか。しかしそれは……」
「禁忌だ、と言いたいのだろ?」
ライタントの言葉を遮るように、岩屋は声をかぶせる。明らかにその言葉が出てくることを知っていたかのようだ。禁忌であるかどうかは、この際問題ではない。と岩屋は割り切っていた。問題であるのは、作るための技術があるかどうかである。その一点だと。
DNAを知らないとすると、次善の策を取るしかない。つまり、ロボットだ。
「では、ロボットはどうだろうか」
「ロボット……?」
ロボットという言葉は、まだ生まれていないようだ。少なくとも、意味がある単語だと思われていない。ともすればと、岩屋は考える。ロボットの定義を二人に知らせ、それに近いこの世界の単語を知らなければならない。
「機械的に動作する人形、と言えば分かるか。自律的に動き、人と同様の挙動を行うことができる機械だ」
「ああ、シャホールですね」
シャホールというのが、どうやらロボットと同義の単語らしい。それが分かると、あとは意思疎通は簡単だった。
 




