6.
岩屋は、それから一睡もすることなく作業を続ける。そして翌日。いつの間にか眠っていたサザキがぼんやりと起き上がった。そこは、物置の一角、床の3分の1ほどの大きさのフローリングの上だった。土間のところでは、岩屋が作業しているのが、サザキははっきりと見れた。部品をねじで止め、少しずつ大きくしているところだ。
「おや、起きたかい」
サザキが目を覚ましたことに気づいた岩屋は、作業を一時止め、サザキのところへとやってきた。それから、かたわらに置いてある皿を渡す。
「朝ごはん、食べないとだめだからな」
六切りパン一切れ、大根葉と山菜の浅漬け、豆腐半丁が、そこに盛られている。ただ、汁は極力除かれている。そのため、パンがふやけるということは起きていなかった。
「何してるの?」
サザキがぼんやりとしながら聞く。岩屋は微笑み、皿を渡して背伸びをする。
「もう終わるところだよ。ああ、ご飯を食べて手伝ってくれるかな」
サザキに頼むが、サザキ本人は寝起きのせいか、未だぼんやりとしている。そこに、物置への足音が聞こえる。
「先生、起きてますか」
カラカラと軽い音とともに、扉が開けられる。朝日が部屋の中にもぐりこんでくるが、岩屋は気にしない。明り取り用の窓からすでに見えていたからだ。
「ああ、起きてますよ」
彼に岩屋は答える。眠い目をこすりながらも、作っていた部品を集めている。
「サザキ、おはよう」
「おはよう、里長さん」
「里長という名前なのですか」
サザキの呼びかけの名前に、岩屋は気になって聞いてみた。彼は笑いながら、それをやんわりと否定する。
「里長というのは、この里を治めている長というだけです。まあ、村長とかと同じですね。名前は、ジュン・タイラントと言います」
ここで、初めてタイラントは自己紹介をした。ようやく里の一員として迎え入れることができる、そう確信したからだろう。そして、岩屋のあだ名は、どうやら先生で固定されたようだ。
「時に先生、それはなんなのですか」
後ろに置いてある何かしらのパーツを指さし、タイラントは岩屋に尋ねる。すぐよこでサザキが朝ごはんを食べ終わったようで、食器をタイラントに差し出している。
タイラントがそれを受け取っているのを見つつ、岩屋は部品の一つを手にとって、タイラントに見せる。渡したわけではない。そもそも食器を持っているのだから、タイラントは持つことができない。
「これで、水車をつくります。あそこの川にこれらの部品を組み立てたうえで浮かせ、回転力を発電に生かす予定です」
「なるほど、何か必要な物なぞありませんか」
タイラントは、下心なく、単純な親切心から岩屋に聞いた。それを聞いて岩屋は、若干考え込んだ上で、タイラントに話してみる。
「ならば、家などにつなげるための送電線があればいいのですが……」
タイラントは岩屋の話にすぐに答える。
「倉庫の中を探してみます。それでは」
「ええ、ありがとうございます」
タイラントが去ってから、岩屋はパーツの最終確認をして、いまだ寝ぼけたような表情をしているサザキとともに、川へと向かった。