66.
翌日、岩屋はさっぱりとした目覚めを迎えた。ドアは見事に無かったが、誰も夜中に襲撃してこなかった。素晴らしいことだ、岩屋はそう感じていた。なにせ、ここまでぐっすりと熟睡したのは、サザキが殺されてからはなかったことだ。
サザキか…人知れず、岩屋はつぶやいていた。そういえば、サザキが死んでからもう1か月がたとうとしている。月日が過ぎるのは早いものであるが、ここまで早いとは、岩屋は考えていなかった。未だにサザキを復活させるという計画は達成されていない。そろそろしなくては、岩屋の頭からサザキの記憶がこぼれおちてしまいそうだ。
この世界に1年以上いて、科学水準は大体把握できている。大雑把に言って、明治時代の日本ぐらいだ。ただ、銃器類はその数段前で、拳銃は6発入りのリボルバータイプ。機関銃は今のところ出てきてはおらず、刀やナイフ、手榴弾が主流となっている。そこで、DNAを毛髪から抽出して、人の肉体を復活させるということは、不可能だ。
ならば、と、ベッドに腰掛けつつも、岩屋は考える。肉体を復活することが無理だとすれば、機械ならどうだろうか。ロボットのようなものだと言えば、分かりやすいだろうか。だが、ロボットはおろか、電気を使うと言うのがやっとというレベルだ。ラジオ放送があるが、テレビは無い。レコードは岩屋は見たことがない。正確な地図を書くための測地術はあるようなのだが、それは江戸時代にはすでにあったものだ。ロボットは、小説で読まれることか、妄想として一蹴されるかのようなレベルである。
それでも、岩屋はしなければならない。奉葎将軍が落ちた今、他の将軍は従防備になっているだろう。これからは本気での戦争になる。総力戦とまではいかないまでも、歩兵と歩兵がぶつかり合うような、そんな戦争だ。そういうこともあり、ここで一息入れると言うこともいいのではないかと、岩屋は考えるようになった。奉執将軍としての職務を果たすべきであろうと。これからの国民生活を守らなければ、こんどは岩屋が国民に殺される番だ。それは、できるだけ避ける必要があった。