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65.

 ドアの向こうの人は、もう一度声を岩屋へとかける。

「お届け物ですよ、ドアを開けていただけませんか」

「人違いでしょう」

 岩屋は向こうの人に話す。声から考えるに、どうやら男のようだ。りりしい感じではなく、風邪でも引いているような鼻声だ。だが、聞き取りにくいというわけではない。よく通る、いい声だ。風邪をひいていても分かる。

「えっと、岩屋京士朗さんですよね」

 男は荷物の名札を確認したようで、若干の間があった。それでも、岩屋本人だと気づいているのかどうかは分からない。そこで岩屋は、追い返してみようと考えついた。

「いや、そんな人は知らないなぁ。奉執将軍その人だろ。俺はシュトルン・ユンサンドだ」

「え、そうなんですか。あれぇ、おかしいなぁ」

 男は困った声を出して言う。

「それじゃあ僕は、誰を殺せばいいんですか」

 笑い声をあげ、ドアは蹴破られた。部屋の向こう側にドアが飛んで行くより前に、男は部屋へと踏み込んでくる。岩屋は入ってくる男の足元に発砲する。1発、2発と弾は床を穿つばかりだった。岩屋が発砲するとみた男は、ダンッと勢いよく宙へ飛んでいたからだ。

 音を聞くと岩屋は、その放物線を見て、着地するポイントに狙いを澄ます。着地すると思った瞬間、手に持っていた段ボールのような厚紙のような箱を、岩屋めがけて投げつける。岩屋がそれをよけている間に、ベッドを勢いだけで飛び越え、岩屋の射程の死角へと飛び込んだ。箱は壁に叩きつけられて、中身が飛び散る。藁が敷き詰められていたようで、床の一角に、こんもりと藁の山が出来上がっていた。

「もう一度聞く。あんたが岩屋京士朗か。はいかいいえで答えろ」

「そうだ。だが、殺すことは今は難しいぞ」

「なぜだ」

 藁を踏みしめつつ、岩屋はベッドへと接近する。いい具合に藁が足音を消してくれていた。それでも、踏みしめる時の音までは消してくれていない。だから、男ははっきりと岩屋が近付いていることが分かるだろう。そのため、勝負は一瞬でつくと、岩屋は確信していた。銃は男がいるであろう、飛び出してくるであろう方向へ向けつつ、じりじりと近寄っていく。いきながらも、男と会話を止めることはない。

「簡単な話だ。ここまで大騒ぎをすれば、間違いなく誰かがやってくる。奉葎将軍の部下は勝手に動いているだろうし、治安組織も当然あるだろう。ならば、必然的にお前は逃げざるをえない」

「さて、それはどうかな」

 ドアが吹き飛ばされてから、もう1分は経っただろう。誰かが物音で騒いでいてもおかしくはない。だが、通路の前を、誰かが通ったという物音は聞こえてこない。それどころか、誰かが騒がしくしているという様子も全くない。どういうことか。そこまで考えると、突然クックックッと男が笑いだす。

「この馬家はな、もとから僕らの仲間が運営しているんだ。懸賞金はまだ有効だろうからな」

「残念ながら、懸賞金は受け取れないだろうな」

 今度は、岩屋が笑う番だった。どうしてだ、と男がきいてくる。

「そりゃ、懸賞金をかけた本人が死んでいるからだよ。とりあえず、今のところはな」

 男は、黙って岩屋の話を聞いている。懸賞金狙いで岩屋を殺す予定だったのだろうが、どうやらその予定が狂い始めているようだ。

「ということで、今日のところはお引き取り願おう。懸賞金がかかってから出直してもらいたい」

 男は突然立ち上がり、岩屋へと言い捨てる。

「その首、取るのは僕だ。それまで死ぬなよ」

「へいへい、せいぜい生き延びときますよ」

 わざと悪口っぽく言って、今は男が部屋から出ていくのを黙って見送った。岩屋は、床と蹴り飛ばされた時の反動で半分に曲がって割れているドアを直すことをあきらめ、そのままベッドにもぐった。

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