63.
奉葎将軍は、おびえていた。おびえる必要はないと、部下に言われても、おびえるしかない。なにせ、これまで幾人と送り込んだ刺客が、あっけなく殺されたり、返り討ちにあったり。さらに、最強だと自称しているやつに、最後を任せると、数分かからずに殺されたという。死体は地面にたたきつけられ、無残にいくらかの肉体は散らばったという。
「将軍……」
部下が奉葎将軍がいる執務室で、話しかけていた。人払いをしているせいで、誰もいない。それどころか、王宮の中にも、ほとんど人がいない状態だ。それでいて、未だにおびえ続けている。いつ、岩屋が攻めてくるかが分からないからだろう。少なくとも、この部屋は鉄壁であろうと考えていた。何を根拠にして考えているかは、奉葎将軍の心のうちゆえに、奉葎将軍しかわからない。そして、破局の瞬間は、唐突に訪れた。
岩屋が、王宮めがけて光を集めて出したのだ。太陽光線の焦点を合わせ、王宮の、それも執務室がありそうなところを狙った。数千度になるため、執務室にあたった瞬間、紙や布は引火点を超え、自然発火した。空気中の酸素を一気に奪っていくと、さらに奉葎将軍の肉体ごと燃えていく。それから、外壁が融けだして、蒸発を始める。室内の調度品類も燃え始め、もはや中は見てられない状況となった。
一通り焼きつくすと、岩屋は建物から降りる。もはや誰も邪魔する人はおらず、消防が駆けまわり、警察や軍が大慌てだ。その中を、岩屋は悠々と歩く。王宮の中は、閑散としているが、それは規制されているからだろう。規制されているとはいっても、人出が足りていないために、規制がされていると言われているだけだ。止める人なんて、ここには誰もいない。そのために、岩屋は邪魔されることなく、中へ入ることができた。
歩きつつ、執務室の場所を探していく。だいたい一番高いところだという予想だけで、高いところへと向かう。そして、王宮の中で一番高いところへと到達する。そこは、さきほど岩屋が破壊したところだった。黒焦げ死体が2つ、もはや見た目で判別することは不可能であった。だが、部屋にいるということ、燃え残った装飾品から、岩屋はこの内の一人が奉葎将軍だということを確認した。
「ゆっくり眠ってくれや」
岩屋は死体に声をかけると、その装飾品を2つ剥ぎとった。ひとつは指輪だ。熱によって変形しているが、おそらくはルビーがはめ込まれている。金で出来ているのは間違いないが、その飾りは溶けて凸凹としているものになっている。もう一つは、首にかけているネックレスだ。本当は鎖状になっていて、金と銀で美しく彩られていたのだろうが、今や溶けて一本の棒になっている。それでも首にかけられている状態なのは変わりなく、皮膚の一部ごともらって帰ることとした。
岩屋は、それらと、さらに頭を首でへし折ってから、煙幕弾を入れている袋にまとめて入れる。それから、岩屋はこの土地から出て行った。




