62.
屋上の扉は、扉というよりかは板と言った感じだ。元々あったであろう扉は、ちょうつがいの部分を残して、きれいに取られている。いや、へし折られているようで、少しは跡が残っている。木片がちょうつがいに挟まっている程度ではあるが。
代わりにはめ込まれている板をはぎ取り、適当に捨てる。すると、そんな岩屋に声をかけてくる人がいた。銃口を向けて、タバコを吸っている。煙草は、すでに半分ほどにまで火がともっていて、彼の足もとには、何本も煙草が落ちている。
「やあ、岩屋さん。待っていましたよ」
その直後、岩屋に向かって一発撃つ。パァンと、反響することなく響き渡った。だが、誰もこの音に注意を払うことはない。このあたりでは日常茶飯事の音だからだ。
弾は、岩屋がとっさに動いたから、わずかに頬をかすめた程度で済んだ。そのままいたら、間違いなく鼻に当たっていただろう。
「ほう、この距離でよけますか。面白い」
彼は、独り言のように言う。岩屋は、そのまま体を横にスライドさせ続け、彼との距離を取る。だが、彼は微動だにせず、淡々と銃口を岩屋へと狙い続けた。
「誰だ」
「奉葎将軍からの使者だ。あなたに死んでもらいたいと、そういう御意向なので。こちらにあなたを殺す理由はない。だが、それゆえに死んでもらう」
再び未来位置を予想して、彼は岩屋へ発砲した。だが、一瞬でしゃがみこみ、岩屋は弾をかわす。そして、勢いよく地面をけり上げると、左へ右へと動きながら、ナイフを取り出し、彼の懐へ飛び込んだ。
「さらばだ。あなたに構っている時間はないのでね」
そのままの勢いで、ナイフを彼の体に突き刺したまま、地面へと突き落とした。13階から突き落とした時の衝撃音は想像を超えていた。ドズンと、地面へと叩きつけられ、上からみると、みるみる間に血だまりができていた。
岩屋は、一応合掌したが、すぐに準備へ取り掛かる。王宮の方向を見定め、太陽の位置を確認する。それから、装置を展開する。作ったのは鏡だ。それも、曲がっていて、およそ300メートルから、角度を調節すれば、500メートルくらいに焦点が合うようになっている。今日は特に太陽光が強烈だから、相当な威力になることが期待できる。そう思いながらも、10個に分割された部品を、正しい位置にセットしていった。




