60.
宿では、誰にも邪魔されずに眠ることができた。煙幕装置は比較的簡単な機構でできるため、午前4時ぐらいに起きて、5つほど作った。結局この日の睡眠時間は、おおよそ6時間といったところであろう。それでも、岩屋は眼が冴えていた。これから行う予定である、戦争に、気が立っているためだ。
岩屋が部屋のカーテンを開けると、猛烈な太陽光線が目に飛び込んでくる。これまで見たことがないような、強力な光だ。つまり、この状態であれば、第2案の作戦を決行することができるということになる。煙幕は、作る必要はどうやら無いようだ。
だが、と岩屋は考える。もしも作戦がダメだったらどうする。その時は煙幕でも張って逃げなければならなうだろう。その時のために、いくらかは持って行くべきだ。そのため、作っていた5つをカバンに全て詰め込むと、部屋を出た。
宿をチェックアウトし、荷物を全て持ち出すと、いよいよ省都へと乗り込む番だ。警備兵があちこちにいるが、岩屋は臆することはない。それどころか、堂々とした風体で、胸を張って歩いている。何も恐れるものはないというふうに。それどころか、岩屋を周りが恐れるかのように、威圧的にすら感じるほどだ。
それゆえに、警備兵は岩屋に何か尋ねようと言うことはしない。街ゆく人も、岩屋を自然に離れて歩くようになっていた。そのため、岩屋の周りは1メートルぐらいであるが空白区域が生まれていた。そこを岩屋は当然のように歩いていく。そして、ある建物の一つに入った。最初に目を付けていた建物だ。