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552.
「彼らが、本当に優しい存在なのであれば、戦争をするでしょうか」
「優しい、とはいっても、自らの生存のためであれば、それを選ぶことはあるだろう」
完全に相手にその領土を委ねるなぞ、愚か者がすることだからな。そう大隊長は語った。それを見つつも、命令に逆らえないのが軍人の辛いところである。妻はそれを知っている。自身も、その軍人の一人なのだから。
「では、活動は明日よね」
「そうだ、番号3を明日発動する。悟られぬようにせよ」
「……了解しました」
敬礼を行い、何か言いたかったことを飲み込んで、妻は会議室を離れた。残された大隊長は、一人、「戦争で何が得られるのだろうな」とつぶやいた。そのつぶやきは、冷たい石の隙間に潜り込み、意味をなさない音の反響となった。




