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4.

「ここだ」

 工具箱の男は、納屋のようなものお気のような建物へと連れてきた。そこは、彼の家から近く、すぐに駆けつけられる距離にある。つまり、岩屋が妙な動きをした時には、取り押さえ、殺すこともできると言うことだ。物言わぬ刃を喉元につきつけられているわけではあるのだが、そんな状況であっても岩屋は喜んでいた。

 岩屋の死んだ娘によく似たサザキという少女は、工具箱の男に文字通り泣きついて、岩屋と一緒に居ることが許された。どうやら工具箱の男は、このあたりの村長をしているようだ。


「…さて、するか」

 工具箱の男に言われたのは、電気を使いたいと言うことである。材料は、木の板が数十枚、それとワイヤーが数十メートル分、小指の爪大の大きさで1ミリメートル程度の厚さがある鉄板がこれまた数十枚。これらは一応は整頓され、それぞれ別の箱に納められている。だがその他こまごまとしたネジやナットや大小様々な鉄芯といった雑多な物は、20センチメートルほどの箱一杯に、無造作に詰め込まれていた。

 電気を分かっているということなので、とにかく文明は産業革命かそのあたりまでは進んでいるようだ。だが、国土全域に伝わるようにはできていないらしい。必要なのは、この村に電気をどうやって通すか、それとどうやって電気を起こすかということである。

 岩屋が考えている間、ネジとナットと鉄芯とその他を4つの小さな箱に、鼻歌をしながらサザキが分別をしている。その様子を見ながら、さらに岩屋は頭の中で設計図を創りだす。

「木の板に鉄板、磁石もいるか……」

 岩屋が考えているのは、簡単な水車を造り、発電をしようというものである。そうなると必要なのは、おのずと分かってくる。電線が足りないような気がするが、その心配は今するべきでは無いと、岩屋はその考えを脇に置いた。

「よし、じゃあそれで行こう」

 岩屋の唐突な声に少し驚いたサザキではあったが、すぐに気持ちを持ち直し、岩屋に聞いた。

「どうするの」

 サザキの言葉に、にやっと笑いながら岩屋は答える。できるだけ簡単に。しかし、ちゃんと伝わるように。


「専攻は宇宙物理だったが、一般物理もしておいてよかった。さあ、これで電気が起こるはずだ」

 岩屋が組み立てたのは、簡単な装置だ。いわゆる手回し発電機で、ハンドルを回すことによって、簡単に電気を作ることができる。今回は、手製の裸電球を使って、実際に動くかを確かめることにした。電球と言っても、カバーはなく、単純にワイヤーを渦巻き状に巻いたものに過ぎない。だが、それでもこの村にしては大事なものだ。

 まだ発電機を動かしていないせいか、不思議そうな顔つきで、サザキは機械をつついている。持ちあげてみたり、そっと置いてみたりしている。どうやら、動かし方は、全く分からないようだ。それを、まるで父親のような優しい顔つきで、岩屋は見守っている。

「ほら、こうやって使うんだ」

 貸してごらんとサザキに言い、機械をひょいと持ち上げる。電球部分がどこにも当たらないように置くと、勢い良くハンドルを回し出す。

 するとすぐに、ワイヤーが赤くなり出した。そして、そのエネルギーが光へと変換され、物置の中は、朝焼けのような光に包まれる。

「できたな。物理法則は元と同じなのか……」

 日本語で独り言をいったせいか、サザキは言葉の意味を理解しなかった。だが、サザキの目や心は、生まれて初めて見る、電気というものに注がれていた。

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