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「だから、可能と『信じる』のではない。可能なのだよ。すべては1つの大義のために。な」
「大義のため、ですか」
パイースはそこを繰り返す。そうだと岩屋が言うと、立ち上がってパイースに尋ねる。
「きみにはやる気があるかい。この計画に、全てを賭けてもいい、どれだけ不利であろうと、それを貫き通すという意志が」
「はいっ」
それについては、はっきりと答える。それが真実の心だからだ。何も考えない、ただ本能のように答える声に、その瞳の力強さに、そして、体からの発せられるエネルギーに。岩屋はそれに驚いた。
「よろしい。ならば結論を述べよう」
パイースは体を固くする。いよいよ、この発表の結果が伝えられるのだ。これで、この計画が闇に葬られるか、それとも日の目を見るのかが決まる。緊張しないはずがない。
「君の今回の計画ではあるが、若干の変更点を含め、採用したい。このたびの計画の主任は、君が指揮を執ってほしいところだが、他に適任者がいるとすれば、その者としよう。君も、国土計画についての研究をすすめなければならないところだからな」
岩屋の言葉に、本気で喜んだ。パイースは机がなければ、岩屋に飛びついて抱きしめているだろう。頑張れるか、という声に、はいっ任せてくださいとパイースは声を上げる。そして、岩屋に敬礼をしてから意気揚々と執務室を出ていった。
「……まるで鼻歌でもしかねない勢いでしたね」
「まあな」
ふぅ、と息を吐いて岩屋は執務椅子に深く腰を下ろす。ギシィと椅子が声を上げるが、岩屋もライタントも気にするそぶりを見せない。
「あれで、よろしかったのですか」
「目的は違えど、結果は変わらない。ならば、それを隠してでも作るっていうのが得策ではないのかね」
「非軍事目的の、大衆の高速輸送。航空機では乗り降りすることができない近郊距離を目的とした、抗争鉄道網。そこに、軍人輸送の任務を付け加えるという若干の変更を加えたうえで、それを了承。パイースもそれを飲んだ」
「……何が言いたいんだ」
「いえ、とくには。ただ、功を焦り過ぎてはいないかと。特にここ何年かは、単なる平和な時期が過ぎているにすぎません。もうそろそろ、戦争を起こし、もしくは相手を屈服させ、領土を広げたい。そう考えているのでは」
「……さすがはライタントさん。良く見抜いていらっしゃる」
「それはどうも」
皮肉交じりだということは、ライタントもわかっている。だが、ここは素直に礼を言った。
「まだ、時期ではない。それもわかるね」
「当然に」
「つまり、そういうことだよ」
「……では、どこから攻めますか。北、南、もしくは西ですか」
「二正面作戦をするほど、戦力はない。一つずつつぶしていこう。北からか」
岩屋はライタントにそう伝えた。




