456.
「DNAというのを、知っているか」
たびたび岩屋が話しているので、ライタントはうなづいた。
「確か、人間の形を作っているタンパク質、でしたよね」
「そうだ。それにより、全ての生命が成り立っている」
実際には、RNAというのもあるのだが、そのあたりは岩屋は話していなかった。
「それで、それがどうしたのですか」
「DNAから、原始的な生命を作製することに成功したそうだ。ウイルスといったたぐいだな」
「はぁ……」
何を言いたいのかわからないという顔を、ライタントはしている。
「まりだ、このままいけば、人工生命を創り出すことも可能だということだ。人造人間の誕生だな」
ピンとこない顔をしていたライタントだったが、人造人間と聞いて、顔色が変わった。
「シャホール、とは明確に違いますね」
「そうだ、シャホールでできた人間ではない。人が人を作るということに、我々は足を踏み入れているのだよ」
宗教的な倫理は、この世界にはない。だからこそ、このような人造人間まで一気に行くという道筋があるのだ。目の前にあるのは、無限ともいえる科学の広い世界だ。そこに、岩屋たちは、足を踏み入れた。
それが底なし沼とも知らずに。




