42.
翌日。岩屋は執務室に居た。奉執将軍として正式に認められていないが、他の誰も異議申し立てをしていないため、岩屋こそが新たな奉執将軍の継承者だと誰もが認めたということだ。それは、奉王将軍も同様だと言うことになる。それゆえ、執務室の新たな主として、岩屋はここに君臨している。
「…集まったのは、君たちだけか」
執務室に集まった里の生き残りを見回す。ラグ、ライタントを除いて、5人ほどが残っていた。彼らに、それぞれ役割を与えることに、岩屋はした。王宮の中をいくらかの班にまとめ、彼らをその班長とする。さらにライタントを頂点とすることとした。奉執将軍代理として、ライタントは今後、この執務室を使いつつ政務をおこなうこととなる。
「君たちは、これからライタントの下で、働いてもらう。これは、決定事項だ。また、何か意見があればライタントに言ってもらいたい。必要な措置を取ってもらう。その他、軍務上についてはここにいる中書のラグが行う。ライタントとラグは、共同して政務にあたる。以上だ」
岩屋が命じると、ラグが岩屋に聞いた。
「しかし、同行することができなくなってしまいますが」
「ラジオを聞いた通り、これは僕自身の復讐の旅でもある。そのため、ここでしっかりと働いてもらいたい。この旅は、一人でしなければならないんだ……」
まるで、岩屋自身に言い聞かすように、語尾は小さくなっていく。無意識のうちに、胸ポケットにそっと触れた。そこには、サザキの遺髪が、ずっと入っている場所だ。だが、感傷に浸る時間はごくわずかしかない。すぐに気持ちを切り替えて、椅子から立ち上がって宣言する。
「いいか、これから僕は長い旅に出ていく。聞いての通り、死んだサザキの復讐の旅であり、この世界を正すための旅でもある。だから、僕がここに帰ってこれるか保証は無い。仮に、僕が死んだという連絡を受け取った時のため、この手紙を渡しておく」
ライタントに1通、ラグに1通の2通を、それぞれに手渡す。封筒は糊で確実に開かないようになっていて、中を見ることは不可能だ。そのため、何が書かれているかをうかがい知ることは出来ない。
「2つで1つだ。君らが1通ずつを持つのだ。そして、何かあればそれを開きなさい。全てはそこに書いておいた」
言いたいことを全て言ったようで、岩屋は窓辺へと近寄る。ついこの前、岩屋が引き起こしたテロ行為の数々の復旧の工事の音が遠くから聞こえてくる。それは、今現在も、ここの人は生きているという音だ。
「では、旅立つとしよう。後は任したぞ」
ライタントとラグの肩に手をやる。それからは振り返ることもしなかった。一直線に執務室を出ると、新たな旅をはじめた。