41.
岩屋は、ゆっくりとした口調で話しだす。
「これを聞いている紳士淑女の諸君。僕は、岩屋京士朗だ。この放送は、奉執将軍王宮内部の放送機器を用いて放送している。つまり、奉執将軍が死んだということを意味している。
誰が殺したかは、言うまでもないであろう。だが、一応念のために言っておく。この僕だ。奉執将軍の次を継ぐのは、この僕だ。その前に、しなければならないことがいくつかある。そのため、奉執将軍の地位の承継は、後回しとさせてもらう。代理として、ジュン・ライタントが、実権を握ることとなる。それをはじめに話しておく。
さて、では本題と行こう。本題とは、これからの国の運営の方針についてであり、これから僕が何をするかという問題についてだ。まず、奉執将軍の領域内に居る全国民に話そう。この国は、乱れに乱れている。治安は崩壊寸前であり、必要以上の税を徴収し、私腹を肥やす人物がいる。僕は、彼らを許さない。そのため、これらのことを約束しよう。ひとつ、役人の整理。ひとつ、税金の減免、ひとつ、治安維持の回復。これらのことは同時に行うことはできないだろう。だが、これらについては、必ず実行すると宣言しよう。
では、もう一つの本題を話す。これから僕が何をするかという問題だ。これについては、他の将軍との関わりも関係している。僕は、愛娘を亡くした。それは、他の奉将軍のせいである。また、他の各将軍のせいでもある。ゆえに、これから宣言する。僕は、将軍たちを許さない。小さい子供を殺すことを許さない。それゆえに、将軍を許すことができない。そのため、僕はこれから将軍を殺しに行かなければならない。ライタントによって、国民との約束は順次果たされて行くだろう。だが、将軍を殺すということは、僕がしなければならない。これを聞いている全ての将軍に告ぐ。僕は、君らを殺しに行く。覚悟をするがいい」
放送は、そこで一方的に切った。岩屋は何か怒っているように見える。ラグは機器室で全ての機器の電源を切ってから、慌てて防音室へと駆け込む。
「どうしましたか」
「……なんでもない」
岩屋は深呼吸を繰り返す。思わず知らず、感情的になっているかもしれないと、自身に言い聞かせる。上に立つ者として、感情を表立てて言うことは、弱みを握られることとなりかねない。それを理解している岩屋だからこそ、それを最大限避けようとしているのだった。
ラグは、そうですかと言ってから、さらに機器室へと戻る。岩屋はそれを追いかけ、防音室を後にした。




