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放送室は、王宮内部に設置されていた。テレビ放送はまだしていないようで、ここでは防音室と、部屋の真ん中に置かれたマイクが印象的である。防音室と併設されているのが放送室の本体で、ラグの説明によれば機器室というそうだ。所狭しとそのための機械が置かれている。ラグの説明によれば、放送が受信できる範囲は、ここから約300キロメートルにもなるらしい。山がないため、どこまでも届くと言うことらしい。
準備のためと言って、まず岩屋は防音室に入った。間は窓ガラスになっていて、双方がはっきりと見えるようになっている。ただし、姿は見えるが声は決して届かない構造だ。防音室になっているから、すでに分かっているだろうが。ただ、スピーカーが防音室の中につけられており、防音室側からスイッチを入れることによって、機器室からの声が聞く事ができる。また、ヘッドフォンがあるため、そちらから聞く事もできる。
「では、テストしますので、マイクの電源を付けて下さい」
ラグの声が、防音室のスピーカーから聞こえてくる。マイクの電源は、マイクの側面につまみ状の物があった。岩屋は言われるままにそれを下に押し下げる。ブゥンと電子的な音が響くと、自然に消えていく。どうやら通電音の様だ。それと同時に、岩屋はヘッドフォンを頭につける。それからスピーカーの電源を切ると、ラグの声はヘッドフォンからしか聞こえてこなくなった。
「なにか、しゃべってください。できるだけ、文章でお願いします」
岩屋は、知っていた落語の寿限無を何度も繰り返すこととなった。文章でとっさに思いついたのがそれだったからだ。多少あやふやなところは、目をつむってもらうしかないだろう。ただ、ラグが知っているとは思えなかったが。
「はい、ありがとうございます。これでテストは終了です」
ラグが言ったのは、10回は岩屋が繰り返した後だった。ただ、ふぅと一息で岩屋は呼吸を整えた。そして、ラグは続けて言う。
「これから放送の本番です。喉は大丈夫ですか」
「ああ」
あー、あーと試しで声を出す。不調なポイントは見られない。声は、さきほどから調子は変わらず、淡々とした声調が続いている。無表情な感じの声だ。だが、それぐらいでちょうどいいようだ。放送用の原稿は、すでに防音室の中に持ちこんでいる。A4ほどの紙で裏表に書かれている。
「では、いきます」
岩屋は呼吸を整える。吸って、吐く。吸って、吐く。そして、ラグのカウントダウンが、耳のヘッドフォンから聞こえてくる。
「ご」
岩屋は、頭の中で、速く動くメトロノームを思い浮かべる。カチコチカチコチと動いている。はっきりと音まで聞こえてくるようだ。ラグは、指を一つ折る。
「よん」
それから、若干速度を落としていく。それは、自分が話しやすいスピードに落すことを意味する。再度、呼吸を整える。ラグは、さらに指を一つ折る。
「さん」
そして、メトロノームは、一定の速度で拍を刻み続ける。カッチコッチ、カッチコッチといったゆったりとしたスピードだ。呼吸も、その拍に合わせて徐々に落していく。
ラグは指で2を示す。呼吸とメトロノームの拍を一致していく。メトロノームに、呼吸を合わせていく。ゆっくりと、だが確実に。
ラグは、そして1を示す。呼吸とメトロノームは完全に一致した。それから、読む文章を確認する。出だしを読み、その言葉を完全にイメージする。
そしてラグは、キューを出した。




