38.
最終的には岩屋の命令によって、ライタントが奉執将軍の代理として、この地を治めることとなった。そうでなければ、ライタントが乗っ取ったという形にも見えるからだ。だが、現状では懸案の一つが解決されたに過ぎない。
王宮の地下牢に閉じ込められていた、里の住人の生き残りを助けると、岩屋は彼ら全員を執務室へと集めた。この時点で岩屋は、身支度を完全に整えていた。伸びていたヒゲも切り、髪型を直し、身体の全てを細かく洗う。さらに爪を切らせるという念の入れようだった。奉執将軍を殺した際とは、もはや別人にも見える。
「さて、集まったのは、他でもない。奉執将軍についてだ」
袱紗につつんだ首を、その場にいた全員に見せる。ある者は顔を背け、別の者は嫌悪感をむき出しにしている。だが、全員の頭をよぎった問題は、この首ではなかった。
「奉執将軍を殺したのは、この僕だ」
他に誰がいようか。別の誰かの手柄を奪ったという考えは、誰ももっていなかった。岩屋が言うのだから、それが正しいのだろうと、迷わずに考えることができたためだ。これは、岩屋が、すでに彼らにとって信頼できる人物と思われていたためだった。そうでなければ、このような話、誰が信じれようか。
その話をしてから、岩屋が決めた今後の方針を話す。それは、ある意味で当然と受け止められ、別のいみでは忌避すべきだと受け止められた。それでも、全員の意見は一致していた。この計画、すなわち岩屋による全国統一以外に、岩屋が助かる道はないと。
「できればついて来てほしい。だが、嫌だと言うのであれば、ここから自由に出ていってもらって構わない。攻めるのが嫌だと言う人は、ライタントの下について、ここを守るという選択肢もある。出発は翌日正午。それまでに決めてくれ。その時、ここに来てくれた人は、ライタントか僕のどっちと進むのかを話してもらう」
岩屋はそう言ってから、里の住人を外へと出した。選択肢は与えた。選ぶのは君たちの自由だと言って。
ふぅ、と長いため息のような息を吐き、岩屋は、今や自身の椅子となった奉執将軍の執務椅子へと、歩いて腰掛ける。ふかふかのクッション、背もたれも素晴らしい。何をとっても欠点なんて見当たらない、最高の椅子だ。それからすぐそばにいるラグへ、岩屋は言った。
「この首、冷蔵か何かして保存しなければなるまい」
「でしたら、地下にある貯蔵庫がよろしいでしょう。ですが、その前にしなければならないことあります」
「なんだ」
「あなたが、奉執将軍の地位を継いだと、世の中に宣言することです。さもなくば、反乱が相次ぎ、国土は灰と化すでしょう」
ラグの言葉ももっともだ。そう岩屋は考えた。そして、宣言文の草案を作らせるようにラグへ命じた。期限は3時間以内だ。