37.
「では、案内を頼みたい」
ラグに岩屋が言う。それは、ほぼ命令であった。
「分かりました、閣下」
すでに次の奉執将軍になることが確定している岩屋に対して、自然と閣下と敬称を付けたラグ。一方のライタントにとって、岩屋は先生であった。そのため、ライタントは自然と先生と呼びかける。
「では、説明させていただきます」
近くの壁にかかっていた地図を持ってくる。その地図は、机の上に置いて、3人とも地図の全てに目が通るようにした。この国の全域の地図だ。地図によると、北と西は巨大な山脈に阻まれており、南は海が、東は河があるため、これ以上先には進めない。形としてはひし形となっている。また、広さは、数万平方キロメートルにはなるだろう。
国はおおまかに、5つの地域に分けられていて、そのうち中心部地域と北側が鎮王将軍が、西側が護王将軍が、南と東が奉王将軍が治めている。今、岩屋たちがいる奉執将軍のところは、東の端にいちしている。さらに北に奉勝将軍が、南は奉葎将軍がそれぞれ治めている土地となる。それらは地図に全て書かれているわけだ。さらに、大雑把にではあるが土地には線も引かれており、それによってそれぞれの将軍が治めている領地も確定していることがわかる。
「……そのため、奉勝将軍、もしくは奉葎将軍のどちらかを攻めるべきかと思われます」
「どちらがいい」
「私としてましては、奉葎将軍を推します」
「なぜ」
その答えを言うために、地図を指す。それは、国境線から伸びる巨大な道であった。
「この道は、奉王将軍が、国土全域に渡した道路になります。この道路は、幅が馬車4台が並んで同時に走れるほどの広さがあります。最大格道路と呼ばれるこの道路は、国土の他の道路に比べ、最も適切に管理されている道路となります。そのため、これを使うことによって、素早く進撃を行うことができるでしょう」
「進撃をすることは構わないが、兵站はどうなのだ。補給ができなければ、戦は負ける」
「それについては大丈夫です。まだ近いので。または、巨大な兵力を持たず、閣下だけで行くという手もあります」
なるほどと、岩屋はつぶやいた。ここで一人で暴れまわったことができたのだ。他の土地についても同様にして行えないわけがない。確かに、大兵力でいくよりも、補給の問題については解決しやすい。現地調達ということもできるだろう。ただ、それについては、問題がある。
「ここを誰が治めるか、という問題だ」
だが、簡単に答えを出すことができた。ラグと岩屋は、同時にぼんやりと地図を見ていたライタントを見つめる。ライタント以外に、誰が適切ということができるのだろうか。
「……分かりました、ここまで来たら、先生につき従いましょう」
数分の説得によって、ライタントは折れた。