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「ただいま入りました情報によりますと、奉執将軍王宮において発生したクーデターは、成功したとのことです。繰り返し放送しています。クーデターは、成功したとの情報が入ってまいりました。なお、続報は入り次第、お伝えできればと思っています」
奉王将軍が周波数を合わせるとすぐにラジオの音声が聞こえてくる。岩屋が逮捕されたことによって発生した政治空白は、瞬く間に埋められた。何か考え込んでいる岩屋を見て、奉王将軍は尋ねる。
「ここに住んでもいいのよ?」
「……いえ、帰ります。きっと待っている人がいるから」
「そう。なら止めないわ」
奉王将軍はそう言ってラジオを置いて立ちあがる。
「拘禁を解除し、釈放します。出ていっていいわよ」
その言葉は、外にいる見張りにも伝わるように大声を出した。見張りはあっという間に走って行き、どこか遠くへ足音は消えた。
「ありがとうございました。今度会う時には……」
岩屋は最後まで言おうとしたものの、奉王将軍の人差し指で止められる。
「いいの。私が死ぬまでに来てくれたら、それでいいわ」
「では」
別れの言葉もないまま、岩屋は見張りと同じように、全力で走った。廊下へ出て、その足音を聞いていた奉王将軍は、ふぅとため息のような息を吐き、部屋においていたラジオを持って、執務室へと歩き出した。




