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「当方、岩屋京士郎と申します」
頭を軽く下げ、まず恭順の意思を示す。お辞儀という風習が彼女にどう見えたかはわからないが、少なくとも敵意はないという判断に至ったようだ。そもそも敵意があればこんなふうに悠長に挨拶をしていない可能性の方が高いわけだが。
「岩屋さん。岩屋さん。ええ、あなたの名前はすでに伺っていました」
役員室の、一番豪華な椅子へと彼女は歩を進めていく。それは、今までと同じように窓を背にして置かれた、人が横になっても十分落ちないほどの大きさがある机の付属品であるようだった。




