35.
「…死んだな」
確認することもしない。岩屋は銃を床に投げ捨てた。弾はぴったり0となっていた。それまで、何発撃ったか、岩屋は考えていなかった。ただ、弾を込め、もしくは奪った銃そのままで、来る相手を撃ち抜く。それを続けているだけだった。
床に投げ捨てた音は、外まで響いていた。だが、反応する人は、誰もいない。第一部下と、ライタントは、その例外的存在となっていた。例外とはいえ、岩屋へ何かをするということは、思い浮かばなかったようだ。着ている服の3分の1が血で赤く染まり、もはや狂人のごとき出で立ちをしていた。その表情は曇りきっており、何を考えているか、外から分かることは無い。はっきりと分かったことと言えば、これ以上、岩屋はここで暴れるつもりはないということだ。
「第一部下、だったな」
「なんでしょうか」
突然、岩屋に声をかけられた第一部下は、びくっと体を震わす。銃を持っていないとはいえ、その体から発せられるエネルギーは、周囲を凍らせることをたやすくするほどだった。岩屋がそこに居るだけで、時すらも止めてしまえるだろう。そのエネルギーの集中を、第一部下は受けている。
「奉執将軍は死んだ。次の将軍はどうやって選ばれる」
「選び方ですか」
第一部下は、その知識を集めた。そして、正確な回答を、岩屋に教える。それ以外を答えたら、殺されてしまうと考えたからだ。
「選び方は3つほどあります。1つ目は、王将軍によって選任される方法。一番多い方法です。死んだ奉執将軍をはじめとして、ほとんどの将軍が、この方式で選ばれています。2つ目は、民衆によって選任される方法。これは、今まで1回もありません。民衆が推戴するという形をとり、将軍を決定します。ただ、明確な基準は無く、どれだけ必要なのかも分かりません。よって、民衆によって選ばれるのは、事実上不可能とされています」
「3つ目は」
岩屋は、そろりそろりと、慎重な歩みで机の後ろから出てくる第一部下に聞いた。ライタントは、逆の方向から、死んだ奉執将軍を見ながら、ゆっくりと歩いている。
「3つ目は、たまに行われる方法です。それは、前の将軍を殺し、自らが将軍として宣言する。この方法は、確かに自分が殺したという証拠が必要です。だいたいは、首を持って行くこととなりますが……」
「そうか、なら簡単だな」
そう言って、岩屋は膝立ちで前の奉執将軍の傍らに座った。そして、首のところに手を置いて、どうしようか考えている。だが、唐突に何かを思いついたようで、第一部下に聞いた。
「刀か何かはあるか」
「ええ、ここに」
第一部下は、壁際へと寄り、そこにあった棚を開ける。中は武器庫のようになっていた。長細い、ライフルの様な形をした銃や、ダチョウの卵ほどある巨大な何かまである。だが、第一部下が手に取ったのは、その中で、ひときわ厳重に保管されている、ひと振りの刀だった。
「金光と呼ばれる刀です」
「貸してくれ」
第一部下は鞘ごと岩屋へと渡す。深い紫色の布が貼られた木で作られた鞘から、岩屋は勢いよく刀を引きだした。ほう、と思わず岩屋が感歎の声をあげる。それは、金光という名前の由来とも言える、刀身の光り方であった。金粉が蒔かれているのではないかと見紛うばかりの光沢を見せている。これは人を切るための物ではない。これは、人に愛でられるためのものだ。岩屋は確信に似た感情を持っていた。だが、これ以外にはどうもなさそうである。ならば、と岩屋は気合を入れた。
そして、一刀で前の奉執将軍の首を切り離した。




