32.
奉執将軍は、一応提案という形をとって、ライタントに聞いている。だが、事実上の強制であることは、疑いの余地はない。ライタントが応えない間にも、わずかに近づいて、爆発音が執務室の窓を小刻みに揺らす。決戦の時はすでに近くまで来ているが、それは、もう少し余裕があるように思われる。
「……嫌だ、ということはできないだろう」
ライタントは、吐き捨てるように、奉執将軍から明らかに目線をそらしていった。それを聞いて、奉執将軍は軽くうなづいて合図を出す。護衛は、ライタントに付けられている手錠足枷を、護衛の腰から下げている鍵を使って、ガシャンと地面に落とす。自由となったライタントではあるが、右手で左手首をさするようにしながら、奉執将軍をキッと睨む。
「こちらを睨むな。その怒りは俺にではなく、岩屋にぶつけろ」
「岩屋は悪くない。サザキを殺したお前が悪い」
護衛2人は、奉執将軍とライタントの間に、壁になるようにして立ちふさがる。ライタントが殴りかかっても、すぐに防げるように。だが、ライタントは殴るようなことはしなかった。第一部下は奉執将軍のそばへと歩いていく。そして、静かに耳打ちする。
「来ます」
「そうか」
誰が来るか、それは明白なことだった。だから、二人とも、わざわざ言うようなまねはしない。奉執将軍は、護衛2人を部屋の外へと出し、第一部下とライタントの3人にした。それから、ライタントに奉執将軍が告げる。
「まもなく、岩屋がこの中にやってくるだろう。どうだろう、覚悟はできているかな」
「覚悟?あるわけない」
だが、しなければならない。それは、はっきりとライタントには分かっている。だから、この部屋から逃げ出すようなことはしない。岩屋と出会い、どうするかは、その場で考えるしかないだろうが、それについて、さほど心配していない。それどころか、楽天的な考え方を、ライタントは持っていた。ここまでくると、そうでもならないと生きていけないのだろうが、ライタントは元から楽天的だったのかもしれない。
「…そうか」
奉執将軍は、それについて何も言わなかった。そして、近くで10回目の爆発音が響いた。同時に、宮殿の内部が急に騒がしくなってきた。銃撃戦になっているらしく、パンパンと銃声が聞こえる。どうやら岩屋が、この宮殿の中にまで入り込んだようだ。いよいよだと、奉執将軍は、気合いを入れる。
「さあ、どこから来るのか……」
執務室の建物は、周囲から攻撃を受けにくいように、1階半ほど高くなっている。となれば、考えられる道は一つ。奉執将軍は、執務室の机に座り、奉執将軍から見て左にライタントを、右に第一部下を立たせる。しばらくして徐々に、外が騒がしくなった。




