326.
ライタントが岩屋へと、奉豪将軍をはじめとする、岩屋側の将軍たちの報告をまとめて行った。
「奉葎将軍は、現在、少々の暴動が起きている模様です。しかし、制圧間近とのことです」
「一応、援軍と、スパイからの報告も受けるようにしてくれ。得てしてこういう報告は、小さめにする傾向があるからな」
「了解です。続いて、奉勝将軍は、対岸へと向かう船の複数の目撃報告が上がっています。しかしながら、拿捕するには至りませんでしたので、乗員は不明です」
「前の奉勝将軍でも乗っているのだろう。ほっておくのが一番だろうな」
「了解です。最後に、奉豪将軍ですが……」
「選挙自体、もうちょっとしたら行われるからな。今は何とも言えないだろうが、おそらく、今の奉豪将軍と首席部下がそのままになるだろう。あの光景を見ていると、どうも、そうなりそうな気がする」
「ええ、私も同意見です」
ライタントが、報告書を閉じ、岩屋へと提出する。岩屋はそれを立ちあがって両手で受け取り、机の左端の決裁済みの束の一番上に丁寧においた。それから、再び座ると、ライタントもソファへと座る。
「奉豪将軍は、一度会ってみて良く分かったよ。彼は、とても民人を大切にし、一番に考えている。僕よりも、彼がこの世界を統べるにふさわしいだろう」
「どうするおつもりなので?」
だいたいの読みをしていながらも、ライタントはそれを聞かずに、岩屋へと尋ねた。
「この世界が平定されると、どうしても長や頭が必要になる。僕は、全国統一を果たしてから、奉豪将軍へ全将軍領を譲るつもりだ。サザキの復活は、それまでに成し遂げるのが理想ではあるがな」
「……シャホールの研究も、しばらくは続けるつもりですね」
「そういうことになるな。当然だ、今回の目的はそれに尽きるからな」
なにやら釈然としていないライタントの表情を見ると、岩屋は簡単に尋ねる。
「ライタントさん、あなたはどう思う。このままサザキを復活させるということをしてもいいのだろうか。サザキは姿形は同じだとしても、中身は全く違う。そんなことに、僕は今更ながら恐れを抱いているのだよ」
「いいのではないでしょうか」
ライタントは岩屋の質問と同じように、いやそれ以上に簡単に答えた。
「いいのかな」
「いいんですよ。それがこの世界にあなたが来た理由なのかもしれないのですよ。むざむざと、それを投げ捨てるようなことは、私は見たくないです」
それに、とライタントは立ち上がり、執務室を出ながら続けた。
「もう、ここまで来たのですから、悩むことはないのですよ」
ライタントは言いたいことを言い終えたようで、バタンと執務室のドアを閉めた。残された岩屋は、そうかそうか、とつぶやいた。その表情は、憑き物が落ちたかのように、スッキリとした表情であった。
 




