25.
それから半月、奉執将軍は、未だに岩屋を探し当てることができなかった。報奨金は天井知らずに増え続けており、奉執将軍の領土のみならず、他の王将軍や将軍の領地の中においても、捜索は続けられていた。今や、ほぼ全ての人が岩屋の敵となっていた。
「しかし、報奨金すごいなぁ」
町中に立っている看板の金額を読み、感嘆の声をあげる男。今、男がいるのは直市のひとつになっている、未伸直市である。この直市は、奉執将軍の省城から、ざっと100キロメートルほどはなれたところにある。商業が隆盛を極めており、全国あちこちからの物産がそろうところである。また、観光名所となっている5つの宗教施設があり、その全てが、五光教とよばれる宗教によって運営されている。その施設の裏手、さきほどの男がいた。いつのまにか、看板の前から移動していたようだ。
裏口の木戸を、3回拳で叩く。ドンドンドンと音が鳴ると、内側へと扉が開く。中から白衣を着た髪の毛を綺麗に剃り上げた男が現れる。彼は男を見るや、すぐに一歩中へと入る。
「さあ、お入りなさい」
「ありがとうございます」
一見すると浮浪者とも見紛うこの男は、岩屋その人であった。だが、ここでは別名を使って生活をしている。シュトルン・ユンサンドという名前だ。さきほど看板を見てきたのは、自らがどのような姿で周知されているかを確かめるためだ。その甲斐あってか、今では誰も岩屋だと気付かない。ひげはのびつづけ、体も長い間洗っていないような状態だ。
建物の中は、清潔に保たれており、風呂も一応はある。だが、岩屋はそこに入ることはしない。入ったが最後、ばれてしまうだろうからだ。復讐を果たす前に、死ぬことを、岩屋は何よりも恐れていた。それを果たさなければ、死んでも死にきれないと、常々考えるほどだ。だが、そのことも、もうすぐ終わる。岩屋はすでに計画を練り上げていた。
岩屋の計画は、半月前、サザキが死んだ時からすでに動き出していた。奉執将軍を、誰もが分かる形で殺し、なおかつ自らがこの世界を統べる。誰もが幸せな世の中を目指すために。そのための計画だ。
計画の為に必要な物を、この半月の間買い集めていた。商都と呼ばれるこの町に来たことは、その物品の仕入れのためもある。秘密の場所として確保した、とある所にせっせとため込んでは、寝る場所としてこの施設へ出入りをしている。その計画は、今現在、誰にもばれてはいない。