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255.
岩屋は、ありがとうと言いつつも、ヒカイロネに譲られたポイントから、外を眺める。今だ眠りにつく街は、とても静かで、冷え切っていた。
「どうしたんだい。みんな眠っていると思ったんだけどね」
「ちょっと、夜風に当たりたくて……」
ヒカイロネは、その肩甲骨が隠れるほどに長く伸ばした漆黒の髪を、風の遊ばせるままにしていた。あちこちへと揺れ動いている髪を、岩屋はやさしく手で梳く。その光景を、ヒカイロネはただ黙って受け入れていた。風が、優しく二人をなでていく。
「……将軍さん、前、約束してくれましたよね」
「シャホールのことか」
ヒカイロネはうなづく。その話のようだ。




