23.
「サザキ!」
組み敷かれた状態で、岩屋が叫ぶ。だが、サザキの方を見ると、足を屋上の縁へとかけかかっている。フラッと危なかしく見える。普通であれば、岩屋が手をとり引き戻すところであるが、今の状況だとそれはかなわない。ライタントも似たような状況のようだ。岩屋からは見えないが、くぐもった声だけは聞こえる。
一方の奉執将軍は、サザキに近づく事ができなくなっていた。今までのことを考えると、一歩ずつ下がっていくだろう。だが、今度下がれば、もしかしたら命がないかもしれない。そう考えると、なかなか一歩を踏み出すことができずにいた。だからといって、これ以上何か策があるわけではない。
「仕方ないか……」
奉執将軍がつぶやいた。その意味は、すぐに分かることとなった。なにせ、言うや否や、サザキめがけて突撃を仕掛けたからだ。だが、奉執将軍がサザキを捕まえる直前、サザキが立っていたところが裂けた。どうやら奉執将軍の体重と脚力に耐えることができなくなり、弱いところから崩落をはじめたようだ。
「サザキっ」
きゃあという悲鳴。岩屋の叫び声。さらにダダダッと屋上端に飛び込み駆け込む奉執将軍の足音がまじりあう。だが、直後にドサッという嫌な音が、はっきりと聞こえてきた。その音を聞くと、岩屋は茫然としている兵を押しのけ振りほどき、奉執将軍の横に立った。
3階部分の屋上から、地上までは、ざっと6メートルか7メートルぐらいはある。子供にとっては、この高さはとてつもなく高いだろう。そして、その地上には、ピクリと動く気配がないサザキが、寂しく横たわっていた。大慌てでサザキがいる1階へと岩屋は脇目も振らずに走り降りる。途中、戦闘を続けている人らを見たが、その鬼気迫る顔を見ると、誰もが静かになり岩屋を通した。こうして、岩屋は邪魔されずに1階へとたどり着く事ができた。
「サザキ……」
まだ暖かい体のサザキの、首元へ手をやる。脈は分からない。呼吸は少なくともしていない。岩屋は、死ぬな、死ぬなと言いながら、心臓マッサージをはじめる。上からは、奉執将軍が見下ろしているが、その表情は硬い。心配していることは分かるが、表情からは、その心のうちまでは分からない。
サザキが死んだ、その真実は岩屋のみならずライタントをも動かしていた。ライタントは、そこから動くことなく、ただ静かに泣いている。声を出すわけではない、ただ、涙を流しているだけだ。それだけでも、ライタントが嘆いていることが分かるだろう。
岩屋はゆっくりと立ち上がる。そして、太陽を背にしてこちらを見ている奉執将軍をにらむ。その目は憎しみがこもっている。それがはっきりと分かるほどの殺気に満ち溢れている。それから、凄みのある声で、奉執将軍だけでなく、この場に居る全員に宣言した。
「いいですか、奉執将軍。僕はあなたを許さない。地の底、根の先、地獄の向こうに至るまで追いかける」
「いいだろう。いつでも受けて立つぞ」
奉執将軍は、言いつつも、岩屋を未だに見下ろしていた。