19.
翌々朝、奉執将軍の一行は、里へとやってきた。その姿は、森の向こう側に通じる道、つまりは川辺にある道から威風堂々としてやってきた。遠くから見ても、その陣容は明らかに今までのとは違っている。弓兵、歩兵、さらには砲兵もいるようだ。土ぼこりがその全容を見せることを拒むかの如く、もうもうと湧きあがっている。だが、その中で旗印として、高々と掲げられている旗だけは、はっきりと見ることができた。そのせいで、ライタントの家の屋上から見張っていた一人が、全員に知らせることができた。
「来たぞ!奉執将軍、直々のご登場だ!」
「やっとか、待ちくたびれたぞ」
この戦いの瞬間を、いつの間にか岩屋は楽しんで待っていた。そのことは、誰にも知られてはいけないと、心の奥深くにしまいこんでいる。だが、声に出していると、自然と心が弾んでいることがばれる。ライタントも、そのうちの一人だ。
「先生、戦争を楽しんでいるのですか」
「科学技術の前進の為には、戦争は必要だからな。もっとも、それ以外にも、脇目も振らずに突き進むと言う強い意志があれば、戦争もいらないがな」
「そうなのですか」
ライタントは、分からないという顔をしている。そこまで一直線にことにあたったということがないのだろう。岩屋はライタントの微妙な心境を察してか、それについて応えることは無かった。その代わり、全員に訓示をする。
「ここに居る諸君は、自らの意思によってここに居ることを選択した。君たち一人一人は極めて弱い。奉執将軍の兵士一人に足りるかどうかだ。だが、それがまとまる時、世界に君臨するにふさわしい軍団と化ける。そのことを、僕は確信を持って言える。故にここに宣言しよう。我々は、世界広しと言えども、この場所に集いた。我々は勝つ!何者にも負けぬ信念を持ち!奉執将軍に勝つ!」
エイエイ、オーと気合を入れ、各員持ち場へと移った。それを見届けてから、ライタント、サザキ、岩屋は屋上へと移動する。彼らの持ち場は屋上にあるからだ。
屋上では、すでに準備が整っている。前日、大量に作り上げたパチンコで飛ばす爆弾の箱を、パチンコが据え置かれている台のすぐそばに持ってくる。おおよそ5つほど箱があり、1つにだいたい爆弾40個が入っている。つまり、これだけで200個もあるということだ。また、それだけではなく、火矢となるべく弓矢も、数百本ほど準備されている。これは、他の人に配給されている武器類と同様の数だ。爆弾は他の人には2つほどの箱が配られているにすぎないが、それでも勝てるかどうかは運次第といったところだろう。
岩屋は、この時に至って、ようやく立ち上がる。これまでは出来るだけ体を見せないように、課が見ながらの移動だった。だが、空堀の向こう側から声をかけられ、立ち上がるを得なくなったのだ。そこには、唯一馬にまたがって、こちらを睨みつけている中年か、もしかしたら初老に差し掛かっている年齢かもしれない人がいた。