17.
一番短い紐を引き当てたのは、ライタントだった。それを確認してから、一致団結してライタントの家を守ることにする。資材は、家を崩して作り出し、鉄などの金属は必要最小限のもの以外を鋳潰した。
「では、この設計図通りにいてください。よろしく頼みます」
岩屋が、一昼夜で考えた防護体制を、その場にいる全員に見せる。ライタントの家の周りに、幅3メートル、深さ10メートルほどの溝を2つ掘り、さらに家の周囲を掘り下げる。食料はあらかじめ数か月分を溜め込み、持久戦となってもいいようにする。一方で逃げ道として、森へと通じる地下通路を3本掘る。少なくとも1本を掘り終わるまでは、他の2本は掘らない。さらに、武器は弓を主体としながらも、簡単にできる火薬を使った手投げ弾や、銃の簡単なものを作ることとなった。硝石は、豚小屋で自然にできているものを使う。木炭は、山のように作ることができる。問題となるのは硫黄であった。
「硫黄……それはどのようなものなのでしょうか」
もしかしたら知っているのではないかと岩屋はライタントに聞いたが、やはり知らないようだ。だが、硫黄の形状の説明をすると、どうやら思い当たるところがあるらしい。岩屋はサザキと共に、その場所へと向かった。
岩屋が案内してもらったところは、森の中でもかなり深いところであった。深いと言っても、里からは1時間もかからず行くことができる地点である。そこは、確かに岩屋が欲しいと思っていた硫黄がそのままあった。この周囲は、独特の臭気が立ち込めていて、温泉の様なお湯が自然に湧出している。開発すれば、良い温泉街になってもおかしくないところだ。一方で、この周辺だけ木々は生えておらず、地面も苔がわずかに生えている程度で、ほとんど地肌が見えている状態だ。硫黄のせいだと、岩屋は分かった。だが、サザキとライタントには、そのことを伝えることはしなかった。それを聞いて、不安になってもらったら、とても困るからだ。
「では、ここからできるだけ運び出しましょう。用意はしてきましたね」
岩屋は二人へ尋ねる。岩屋は大きな袋を持ってきていた。ライタントはここに昔から置き晒しになっている大八車の様なものに、積んでいくようだ。サザキは、何も持ってきていなかったが、岩屋は責めることはしなかった。
「じゃあ、サザキはこの車にできるだけ載せていってくれるかな」
「分かった」
サザキはすぐに返事をした。そして、すぐさま作業をはじめた。岩屋が持ってきた手袋をして、足でけり飛ばしながら岩をはぎ取っていく。黄色が多いものがいいと岩屋は途中でアドバイスしたせいか、サザキはどんどんと黄色いところを重点的に蹴っていく。
岩屋とライタントも、どんどん採取していくと、あっという間に持って行けるかどうか心配になる量が取れた。
「これぐらいだな」
汗を服の袖で拭き、岩屋は2人にいう。
「そろそろ帰りましょう。足りなくなることは、これだけとったら大丈夫でしょう」
「では、先生の通りに」
ライタントが岩屋にいう。それからサザキを連れてきた。大八車に積み上げられた硫黄の原石は、岩屋戸ライタントが車を引きつつ、サザキがこぼれた物を拾っては積み上げると言うのを繰り返した。そして、どうにか取った物を残さずライタントの家へと持ってくることができた。




