16.
半日後、里長であるライタントの家へ全員招集となったが、戦争を行うことになったとライタントが話すと、案の定大騒ぎとなった。喧々諤々となっており、会議はなかなか進む気配を見せない。そこで会議を収拾できないライタントに代わり、岩屋が突如として席から立ち上がった。そして、その全ての声を上回る声量で、部屋の中に集まっている人たちに話しかける。
「良いですかみなさん。みなさんは圧政に苦しんできたと聞いています。その圧政をしてきたのは誰ですか……いうまでもなく、分かっていると思いますが、奉執将軍その人です。仮にここで奉執将軍に屈し、里を引き渡したとしましょう。すると、どうなるか分かりますか。よくて収容所、悪くて処刑でしょう。なので、私はここで提案します。別のところへ今から移住し圧政に苦しみ続ける道を取るのか、それとも万民の先駆けとなり、この圧政に苦しむ世界を変えるための戦争の引き金を引くのか。私は無理強いはしません。ですので、それぞれがしっかりと考えて、後悔しないようにしてください。ここから出ると、二度とこの里へ戻ることはできないでしょう。それを覚えていてください」
水を打ったかのように静まり返っている部屋の中で、岩屋は座った。それを見届けてから、唖然としているライタントが慌てて立ち上がり、その場に居る全員に伝える。
「明日までに決めて下さい。もしも戦争は御免だと言うのであれば、今日中に逃げてもらってもかまいません。それでは、解散してください」
バタバタと誰もが慌てた様子で立ち上がり、ほとんどの人が立ち止まることなく部屋を後にする。戦争は誰もが嫌だ。死ぬのが怖いからだ。岩屋はすでにこの時点で9割ほどいなくなることを覚悟していた。ライタントは誰もいなくなるのではないかと怖がっているように見える。サザキは岩屋の家で眠っていた。
翌朝、里に残ったのは、男たちが主だった。それでも、里の全員から見ると微々たる人数にすぎない。なにせ、合計で14人にしかならないからだ。この人数にはサザキも含まれているのだが、戦力として期待することはできないだろう。それでも、岩屋はこの限られた戦力でも、十分に戦えると判断している。それが証拠に、岩屋は14人を前にして簡単に作戦を説明し始めた。
「では、説明をします。作戦は、いずれかの家を砦とすることによって、集中防御方式で里を護ります」
「それでは、他の家はどうなるんだ」
誰かが聞く。
「あきらめてもらいます。護る家は、ここにいる誰かの家にする予定です。くじをつくったので、引いて下さい」
サザキの手には、紐が握られていた。13本の紐をそれぞれ1本ずつ手にとって引っ張っていく。このなかで一番短い紐を引いたのが護る家となるのだ。




